シュガーボーイの恋煩い





「本日の降水確率は80パーセントです。お出かけの際は傘を携帯なさるといいですよ」


そう、今朝のテレビでお天気お姉さんが言っていたなぁと、ボールの音が跳ねる体育館で、琥珀は一人呟いた。
三時間目の体育の授業。普段なら校庭でのサッカーなのだが、あいにくの雨により急遽バスケに変更になったのだった。
琥珀は体育が苦手だ。
嫌いではない、運動するのはそれなりに楽しい。でも、苦手だ。

琥珀は勉強が好きではない。壊滅的に頭が悪いわけではないが、勉強しないと全教科赤点になってしまうだろう。
だからといって、運動が得意かといわれれば、それにも頭を捻ってしまう。
基本的に、平均より下。やれば、平均より少し上程度。

だから、何故か比較的運動の得意な生徒が集まってしまったこのクラスでの体育は、皆の足を引っ張ってしまうから、あまり好きではなかった。

現在は別チームに振り分けられた刹那が試合をしている。
琥珀とは対照的に、基本的に刹那は何でも出来る。
勉強も運動も、何もしなくても人並み以上に出来てしまう。
けれど、だからといってそれに妬みを覚えるわけでもなく、むしろ尊敬だとか好意の感情しか湧いてこなかった。


皇琥珀は、遠野刹那が好きだ。
それは友情ではなく、恋情として。

とはいえ、別に琥珀はホモセクシャルなわけではない。
大多数の生徒が知らない、刹那の秘密。
刹那は、女なのだ。
中性的な顔立ちをしている上、背も高く、筋肉や肩幅もあって、声も低めだ、一見すると男にしか見えない。
現に自分も、ずっと男だと思っていた。
かっこいい、男の子だと。

だけど違った。彼は、いや、彼女は女だった。
どういった経緯で男装なんてしているのかは知らないが、刹那のこの秘密を知っているものは数少ない。
まずは、琥珀。
これは不可抗力とでも言うべきか、いわば偶然知ってしまったに過ぎないが、一応秘密を知る人間の一人である。

それから、冷泉紫苑。
彼と刹那はどうやら昔からの知り合いであるらしく、彼女の秘密も知り隠蔽に協力してくれたらしい。
そして、紫苑繋がりで風葵も知るに至ったのだとか。


最初は男を好きになってしまったのかと酷く悩んでいた経緯があるだけに、その秘密を知った当時はとても嬉しかった。
よかった。自分はまだまともだった。
普段の刹那を見ているといつも忘れそうになるのだが、彼女はれっきとした女の子で、だから、彼女を好きな自分はどこもおかしくないはずだ。


ドリブルをしながらコートを駆ける刹那へと視線を向ける。
いつも思うのだが、やはり刹那はかっこいい。
顔立ちももちろんだが、所作一つ一つが、琥珀を捉えて離さないのだ。
明るくて、優しくて、楽しい。そんな彼の性格に心底惚れた。

報われないなぁと思いつつも、片思いでも、そんな自分が、琥珀は嫌いではなかった。