跪いて愛を乞え
目の前を通り過ぎる少女と、視線が絡み合う。
ゆるりとしたウェーブの黒い髪、同色の大きな瞳。色白の肌に華奢な体躯。
文句なしの美少女だ。
自分も美形であることを忘れ、思わず見惚れてしまう。
それほどに、目の前の彼女は強烈だったのだ。
暴力的に容姿が整っているわけではない。それでも、何だか目が追ってしまう。
どちらかといえば、可愛らしいといえるような顔つきであるのに、浮かべる表情はどこか艶のある大人びたもので、それはどこかアンバランスだった。
「うっわ…超美少女…」
彼女が通り過ぎた後で、思わずそう呟く。
一緒に来たクラスメイト、そして琥珀も同じように頬を染めている。
可愛い子だったな。
ああ…美人だ、うん。
ぽつりぽつりと呟く声が聞こえる。
そんな様子を見ていた、刹那が声をかけた女子生徒は、少し苦々しげにしながら、小さな声で呟く。
「…あの子よ、斎宮さん」
「え?マジで?あの美少女が?」
「ええ」
「おお…噂以上だな」
美人だとは聞いていた。
だけど、あんな。あの風葵やあみに並び立てるほどの美人だとは思っていなかった。
堂々とした立ち姿は好きだ。それが好みの美人ならばなおさら。
別に彼女の平穏を脅かすつもりはないのだし、先ほどの会話はそれなりに大きな声でしていたのだから、彼女にも聞こえていただろう。
その上で名乗ってこなかったということは、関わりたくないということかもしれない。
美少女は大好きだけれど、彼女の邪魔はしたくないのだ。
「さて、噂の美人も見れたし、帰ろうぜ」
「え?おい、遠野、もう帰んのかよ」
「話してかねーの?」
「ばっか、もう休み時間終わるっての、な、琥珀」
「本当だ…!皆、帰ろう!」
応対してくれた女の子に、とびきりの笑顔でお礼を言って、普通科の校舎へと戻った。
途中で、ほんと可愛い子だったなぁ…とぼやく。
女の子は大好きだ。特に可愛い子は別格だ。
次に会ったときは、彼女の笑顔が見たいなぁ、だなんて思いながら、教室の扉を開けた。