シャルロットの憂鬱





斎宮梨花は美人だった。
それはもう、物心ついた頃から自覚していたことでもあるし、周りの大人たちはこぞって梨花を「可愛いね」と褒めちぎった。
同級生の中で、どれだけ可愛いと称される女の子がいても、どうしたって梨花には叶わなかった。
そうした飛び抜けた容姿は、周りの男子の視線を捕えて離さなかった。


「斎宮さんって、感じ悪いよね」
「そうそう、世の中の男は皆自分のものだとでも思ってるんじゃない?」
「人の彼氏ばっか取るんだってさ」
「うわ、サイテー」


陰口だって叩かれた。
けれど仕方なかった。
だって、それは全部本当のことだったから。

さすがに全ての男が自分を好きになるだなんて自意識過剰なことは考えていないが、自分は男に好かれる存在なのだとは思っていた。
退屈になって、他人の男を取ったことだってある。
だって皆、馬鹿みたいに引っ掛かってくれた。
彼女のことを愛しているというくせに、簡単に自分に誘惑される男に軽蔑の視線を向けていることも確か。
嗚呼、くだらない。つまらない。

表面だけの友人関係しか築けない女同士の友情なんて、もうとっくに諦めた。
そんな偽物に縋るくらいなら、最初から一人でいい。
男と遊んでいる方がずっといい。


「はぁい、美しいお嬢さん。斎宮梨花って女の子知らないか?」


ぼんやりと歩いていると、そんな声が前方から聞こえてきた。
普段よりざわざわと騒がしい廊下に首を傾げて人だかりの中心部を覗き込んでみれば、ライトに照らされて艶めく銀髪が見えた。
あれは、学校内で有名な男…確か、遠野刹那だ。
あちらは普通科、こっちは国際科である故、交流の少なさから噂しか知らないが、なるほど確かに綺麗な男である。

だが、この口ぶりから、彼の探している人物は梨花らしい。
綺麗な男はもちろん好きだが、梨花は面倒事が嫌いだ。
彼に関わると後々面倒なことになると驚異的な危機察知能力を働かせた梨花は、何食わぬ顔をして自分を探している彼らの前を通り過ぎる。
質問されている女子生徒は、自分を目の敵にしている子だった。
わざわざ刹那に、自分との接点を作ったりしないだろう。

真っ直ぐに前を見つめて、歩く。
遠野刹那と、視線が交差した。
彼の瞳が僅かに見開かれるのを横目に、するりとすれ違った。