人形遣いの決意




「次は俺が相手だぜ」


音もなく、四人の周りを大勢の人影が取り囲む。瞬時に戦闘態勢に入ったことを確認して、上から一人の少年が飛び降りてきた。
黒崎リュウ。人形遣いと呼ばれる保持者であり、冷泉恭真の駒を自称する、あみと同じ最高峰の能力者である。
彼の強みは、本人の強さではない。その類稀なる能力の強さで、一度に大勢の人間を操ることが出来るということだ。ピアノ線の如く煌めく能力の糸で自分と対象を繋ぎ、意のままに操る。対象はリュウの意思によってのみ動かされ、相手を攻撃することも躊躇わない。その上、いくら対象が傷つけられても殺されても、リュウ自身に全く影響はないのだ。彼に対峙した人間は、リュウに傷一つ付けることも叶わないまま、息絶えることも少なくない。味方につければ心強いことこの上ないが、敵に回ればこれほど戦いにくい相手もいないだろう。まさに、諸刃の剣の存在。

黒崎リュウは冷泉恭真の駒だ。自ら、彼の人形であると自称さえしている。そこに在る忠誠は相当のものである。
黒崎リュウは人身売買の商品だった。その類稀な能力のせいで、物心ついたときにはもう檻の中にいた。それから、色んな人間に買われて使われて買われて支配されて買われて弄ばれて。そして最後に、恭真に買われた。恭真はリュウを使役しなかった。過酷な労働も無情な殺人もさせなかった。
ただ、衣服を与えて、食事を与えて、教育を施して、そして名を与えて。そうして、好きに生きろと放り出しただけだった。それは、幼い自分に境遇を重ねていたのかただの気紛れだったのか、実際のところはわからないけれど。リュウには、初めての体験だった。自分の意思を持っていいのだと初めて彼に教えられた。好きに生きていいのだと、初めて自分自身を肯定してくれた。
だから、好きに生きることにした。リュウは、恭真の傍にあることを望んだ。彼になら、自分の全てを捧げてもいいとさえ思えた。だから、今ここにある。


「マスターの邪魔をする奴は、俺が全部排除してやるよ」


自分の絶対君主たる、冷泉恭真を、敬愛するマスターを、邪魔するものは許さない。







「私が行こう」
「伊織…!?」

名乗り出たのは、意外な人物。戦闘要員ですらない、竹松伊織だった。まさかの戦闘宣言に、慌てたように風来が声を上げる。だが、それを制して、竹松は前に進み出る。


「残っているのは肉体派戦闘員ばかり、だが相手は肉体派と相性の悪い敵…同じく自分は戦わないタイプの人間が一番適任だろう」
「それは…」
「平気だ、死ぬ前には逃げる、早く行け」


その言葉に、後ろを振り返りつつも走り出す。リュウの操り人形と化した人間を蹴散らし、先へ先へと進んでいく。
それを見送って、一人残った竹松へと視線を送った。


「…へぇ、アンタが相手?いいぜ、やろう」



薬の瓶を構えた竹松と、指を動かすリュウが、ぶつかり合った。