多くを巻き込むお偉い様
「ハァハァハァ。ヤバイヤバイヤバイこんなにポッ〇ーとかじゃ〇りこがいたら折りたくなるのが私の性」
「姉ちゃんストップ。人間は多いけど食べ物じゃないから」
「夜美、お座り」
「ハイ!!」
本当に正座をする夜美を脇から抱き上げ、ハンドバッグの様に抱える彼ら。周囲には体格の良い男達が行く手を塞いでいた。その中心に凛と立つ女性は、戦場に咲く可憐な華の様で、まともな神経をしている風来だけは、見とれてしまいそうになる。
「ここから先は行かせないわ」
「風来さんおろして戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい」
「落ち着いて下さい夜美……ここは俺が」
「あの女にときめいたお前では無理だろう」
「なっ……!!」
竹松と風来のいとこ同士の言い争いにイライラし始める平城真也に夜美。その様子を見て、「千歳お嬢様なら」を何時も最優先に考える大梨言美が前に出た。
「私が、相手を完了します」
「……貴女、日本規模程度の花鳥家のメイドでしょう? 死ぬ気?」
「戦争とは永久に犠牲は継続中。私は時間を追加すれば幸福を完了です」
手持ちのフォークやナイフでは数が足りない。ならば、どう戦うか?
男達の武器を奪って、戦うしかない。
「貴方達の素早さは賞賛。即刻任務を遂行。これは、……花鳥千歳、の、面子、に、関わる、闘い、だ」
片言、しかし人間らしい話し方に、風来灯真のみは先に行くことにためらったものの、彼女の意思を尊重し、竹松と夜美を抱えて先へと男を蹴散らしながら、駆けていった。
「……桜木風葵。水無月高校の女王、追加。冷泉紫苑と交際中。今回の戦争は冷泉紫苑の為と思案。回答は正解ですか?」
「……しーちゃんをほっとけないもん。だけど、しーちゃんは貴方達なんかには負けないよ? 凄い強いんだから。だけど……」
武器を構える男達。その中心にいる大梨言美は死ぬ覚悟で、自分を拾い、感情や思考を与えてくれた花鳥千歳を思い、己の武器をとる。
かつての、自分に。感情の思考もないただ殺すことを仕事とする自分を思い出し、風葵を見る。
「しーちゃんが、誰かの血を浴びるのとか見たくないの」
「−・− ・−・・ ・・ ・− ・・−− ・・−・ ・−−・ −−・− −・−・ ・−・・ ・・−・ ・・− ・・−・ ・・−・・ ・−−−・ ・・−・・ ・・−・・ −・・−・ −・−・」
大梨言美は機械だ。
機械のような人間に機械の様に育てられ、機械の様に殺しを教えられた。大した言葉の意味も知らない幼い赤ん坊だった。
しかし、花鳥千歳は彼女に世界を与えた。だからこそ彼女は花鳥千歳に忠誠を誓い、命を捧げているのだろう。
だから、死ぬことは怖くなかった。今しがた殴られた腕や、足が痛むのも仕方がない。
出来るだけ、時間稼ぎをしなければならないのだ。
『無愛想な面してんじゃねーよ、ブス!』
『言美、見て……今日は、こんなにもいい天気。何かいいことがあれば……いいわね』
思い出す、思い出すー…。
彼女の大切なものを。
そして、こんな所で死ねないことを。
私は、生きなければならない。
そして、未来永劫花鳥千歳を守り続けなければならない!
「−−・−・ ・−・−・ ・−・−− ・・ −・ −・・− −・−−・ ・−・・ −−・−− −−・−− −−・−− −−・−−!!」
叫びに近いモールス信号が、その部屋を木霊した。ボスだろう風葵はまた一切手を出していないのにも関わらず、既に言美はボロボロだ。だが、彼女は死ぬわけにはいかない。
「……っ大梨君!」
「……っ!?」
「大丈夫かい!? ここに田村さんが拐われたと白い女の子に聞いて……!!」
最悪だ。完全に死んだ。
目の前に現れたのは、童顔過ぎる幼い少年で、同じクラスメートの望月誠だった。彼ほどの疫病神が来たと言うことは、本当に自分が死ぬのではと思ってしまった程に。
しかし、このトラブルは彼女だけでなく、その場全員にも当てはまった。
「誠君! 待ちなさい!!」
「また望月のガキがちょこまかと!」
バタバタとその場に現れたのは、警察の軍団だった。
望月誠の父は、警視庁官だ。そのわりに黒い噂の絶えない恐ろしい男だ。
おそらく、望月誠の父はこの騒動を利用して冷泉家、花鳥家を潰すつもりだったのだろう。だが、詰めが甘かった。
この場にいるのは風葵を崇拝する一般でも選りすぐりの猛者の集団。つまり一般人だった。ほんの一握りしかいないとしても……この場を見れば、女性をリンチしているようにしか見えない。
……もっとも、言美も喧嘩を売ったのだから、逃げなければ喧嘩両成敗として捕まることになるのだろうが。
「・−・・ −・−−− −−−」
「え、ええ!? 花鳥君なんて言っているんだい!?」
多くを巻き込むお偉い様
望月誠はやっぱり、疫病神だ。