悲鳴と侮蔑のハーモニー



「初めまして、九条あみさん。俺は中原実と申します」
「もうなんていうか……綺麗な方ですね! 是非今から俺と一緒に繋がりませんか!?」
「あ、すみません。やっぱり順序は必要ですね……ならまず俺の胸にカムバック!」


 あの連中は、鬼か。と九条あみは内心で呟いた。
 入れ替わりで現れた九条あみが、全員はダメでも、半分は足止めをしてやろうと能力を使おうとした。だが、相手にしてる人間達が無粋で人でなしで最悪なことを、まだまともな人間の常識を持っていた彼女には理解出来なかった。

 彼らは攻撃を受ける前に、お互いで協力し、中原実に全ての攻撃を受けさせるようにしたのだ。ある種のリンチに苛め。敵方の九条あみでさえ中原実に同情してしまいそうになるほど、彼の扱いは雑だった。

 結果、中原実が屋敷の入口に先ほどまで横たわり、他の侵入者全員を通してしまった訳だ。追いかける為にも、足止めをするためにも、風を巻き起こし、彼らに攻撃しようとするが、その前にわざわざ中原実は竜巻に省みず、九条あみの手に握られた石を両手で包んだ。


「!?」
「大丈夫ですか!? 怪我していませんか!? ああもう、可愛らしい顔は笑顔が一番ですよ! ほら、にー、です!」


 冷泉恭真とは違う、違和感の無い綺麗な顔だが、彼の子供っぽさがその近寄りがたさを抹消している。反対に、気高き雰囲気をまとった方が魅力されやすいのではと思ってしまう程だ。
 問題はそこではない。何故怪我をしていない? あれだけ電力や氷等に攻撃された筈なのに、何故身体は無傷なんだ。それに、何故敵方の心配をしている?


「歩実から聞きました。貴女は家族の為に戦っているのですね。しかし、俺も田村さんに踏まれたいので引けないのですよ。
 ということで、時間潰しにSMをしましょう! 貴女の攻撃は全て俺が受け入れますから!」


 彼は、中原歩実のお気に入りだった。顔が、ではない。性格や考え方がだ。中原歩実は“優しい人間”に最も着眼点を置いている。それは彼女の理解出来なかった人間を理解するためか……その中で、彼が一番理解出来なかった人間に似ていたのだ。

 残酷で、最悪で、非常識で、狂ったどうしようもない優しさに。


「大丈夫です九条あみさん! 俺は貴女には一切攻撃しません! この戦いが終われば、俺も貴女の家族を探すことに協力しま」
「余計なことしないで!」


 九条あみは家族を人質にとられている。誤った行動をすれば、家族は殺されるかもしれない。目の前の男では、確実にヘマをするだろう。
 綺麗な顔は、すこししょんぼりしたような仕草をした。哀愁漂い、今すぐ普通の人間なら駆け寄りたくなる雰囲気だ。


「……そうですか、残念です。あ、貴女の命令とはどんなものですか?」
「貴方に言う理由が無い」
「……あ、その冷たいセリフ良いです。罵られてるみたいで興奮してきました」


 九条あみは言葉では例えられない悪寒がした。もう他の侵入者の背は見失い、目の前で頬を赤く染めて両手で頬を覆う男しか視界に入らない。

 ならば、目の前の男を倒して後を追うまで。


「一人で立ち向かってきた勇気は凄いと思う……けど、舐めて貰ったら困るわ」
「舐めていいんですか!?」
「意味合いが違う!」


 どうしよう。話が通じそうに無い、そして死にそうにもない。
 吸血鬼に成った男は、目を爛々と輝かせ、九条あみに向かって駆ける。九条あみは大きな悲鳴をあげながら、能力を最大に生かして目の前の男を排除することになった。


悲鳴と侮蔑のハーモニー


「風来さん急ぎましょう! アレは死にません!」
「沙弥ちゃんに近付かせる訳にはいかないんで」
「あの身体は夜美と同じくらい丈夫だからな」
「実君はあの娘を見て仲良くしたいと言っていたから丁度いいわ」
「仲良く、意味は隠微な関係に完了。究極に嫌悪を継続中」
「(帰ったら、全員道徳の勉強ですね)」


 唯一、風来だけがまだ心配をしていました。