後悔しても仕方ない



「平城真也と平城夜美、そして……シバという妖怪さえ見つかれば勝機はあ るわ」 「千歳お嬢様、中原歩実は」 「彼女はダメね。あくまで何時も中立……と言うよりは、それを観ているのが趣味みたいな妖怪だから……中原実は、彼女のお気に入りだから……や はりシバを探さなければならないわ ね」 「シバとは如何なる存在ですか」 「平城家の、先祖よ」

シバ。 人間の憎しみと破壊、呪いによって 生まれた化物だった。姿形は人間であ り、恐らくは昔、生け贄だった死体に その憎しみが溜まりに溜まって、生ま れた破壊神だろう。何より、人間のそ の気が無くならない限り死ねない存在 であり、世界に憎しみや破壊願望があ ればあるほど強くなる化物だ。あの平 城家の強さを見れば、その実力は確か だろう。

その実力者は。

「ハッハッハ、青いのォ。若造よ」 「んだよテメーはよっ……!!」 「ほれほれ、立たんかい。死にたいん じゃろ? なら最期にワシを楽しま せィ」

平城真也と殺し合いをしていた。 琥珀はその恐ろしい戦いを、平城夜 美の保護の元で目の辺りにした。 殴る蹴るの乱闘だが、平城真也の攻 撃は確かに恐ろしい。壁はもう無く、 天井すらない。だが、シバに一発二発 当たろうと、軽くケラケラと笑って流 している。

「お前の想いはその程度なんじゃ。な ら美代はワシに任せィ」 「だっから……美代って誰だ……よ!」 「おっと。ほれそのー。お前の好いと る女子じゃ」 「沙弥。沙弥に、沙弥に何するつもり だテメッ!」

攻撃が、どんどん激しくなってい く。一発一発の攻撃の音はまるで大砲 のように激しかった。平城真也の動き にキレが戻りつつ、シバとなんとか殺 り合えているが、格が違う。

「沙弥か。良い名じゃな」 「沙弥の名前を呼ぶな!!」 「……ああ、お前は若いワシによぉ似 とる……そう。美代に、愛する人間に 何処までも貪欲なんじゃ。 髪の毛一本から足の爪一本、言葉か ら吐息まで全てを我が物にしたい…… なら、何故我慢する?」

平城真也の動きが止まった。シバの 言葉はまるで圧力だ。それは平城真也 のみに限ることで、何処かの独裁者の ように、何処かの悪魔のように、彼は 愛を語り始める。

「何故、愛する人間を譲らなければな らない? 何故愛する人間を諦めなけ ればならない? 相手が不幸になる? 自分が不幸に なる? お前には幸せにする覚悟はな いのか? 不幸から史上の幸せを与え ることも出来ないのか? 一回や二回の失恋がどうだ。明日に は好きになってくれるかもしれない。 己が幸せに出来るかもしれない。い や、そうさせて見せる。 そんな気合いはお前にはないの か!?」

当たって砕けろ。 この男は、砕けて砕けて砕けて、な お壊れて砕けても愛せと訴えた。 普通なら諦めたくなる。人間はそこ まで強くない。だけど、シバの目の前 にいる男は十分に異常だった。

突然大笑いした男。先ほどまで泣い て喚いていた男がバカ笑いし始めたの だ。琥珀は彼の気が狂ってしまったの かと思ったほどに。 しかし、平城真也は、ニィッと不敵 に笑った。

「……俺は、沙弥が大好きだ」 「うむ」 「沙弥の為なら、何だってしたいと 思ってる。それは変わらねぇ……だか ら、俺がアイツを最高に幸せにするた めに、間違ったアイツを半殺しにして でも連れて帰る!!」

「……汚されて、いてもか?」

シバの言った意味は、敏感な真也に は痛いほど意味が分かった。真也は直 感的に、あの男が簡単に女を抱ける男 だと理解していた。それで沙弥が汚さ れている可能性も無くはない。だけ ど。

「もしそうでも、俺は沙弥を嫌いには なれねぇし、諦められねぇ……大好き だから、何があっても、気持ちは変わ らない」

それを言った直後、シバはふわりと 真也に似た笑みを浮かべて、何処かへ 消えた。


▽△


何故、私はあの人と平城を重ねてしまったのだろう。 恭真さんが初めての人で、初めてな のに全く痛くない。本当の本当に優し い人だ。

『沙弥ちゃん』

なのに何で、平城の声と重なるん だ。 平城の笑顔が頭に浮かぶ。何故平城 のことを考える。 何で、私は平城に抱かれている様に 妄想してしまう?

ただ、自分の幸せや妄想、温もりの為に、逃げようとするためだけに私は 彼を利用してるんだ。何て最悪な人間 なんだろうか。それさえも恭真さんは 「君は悪くない」と慰めてくれた。そ れに甘えて、私は……平城と恭真さんを重ねてしまったんだ。

何で何で何で? お別れしたはずなのに。 苦しませたくない。 うん、平城はきっと苦しまない。 恭真さんが言った通りだよ。 だけど、なんで?

私、辛い。 凄く、辛いよ。

平城と居たかった……? でも、何で。

……………。

……アハハ、バッカみたい。 何で今気づくんだろうねぇ。

私は、平城がすきだったんだ。 平城が幸せになって、平城が私の知 らない女のコと並んで、笑顔を向け て、生きていく。平城が幸せでも、 私、何でか少しも幸せじゃない。

だけど、もう遅い。私は、抱いても らった。恭真さんに逃げてしまった。

もう、誰とも合わす顔がない……っ て、誰とも合わせる気が無いから良いか。

どうせ私は疫病神なんだから。



後悔しても仕方ない



「風来さん風来さん! 沙弥ちゃんは 個々にいます!」 「流石夜美。よくタオル一枚でここま でたどり着きました。後でご褒美に文 房具セットをあげましょう」 「チッ。エセ先公が」 「あらあら、皆集まっているのね」 「冷泉家の門を正面突破。花鳥グルー プの大半と冷泉グループの大半は廃倉 庫にて乱闘中……陸の現在地は?」 「迷子だと思います。田村さんを拐うなんて……俺がさらいぐぼっ」 「田村さん、もう……逃がさない」

夜美、風来、竹松、花鳥、大梨、 実、真也が冷泉の本家に集結した。破壊衝動を満たす為、規律を正す為、憎 い奴を好きにさせない為、組を守る為、敬愛する人の為、友の為、愛する人の為と何れもこれもが欲にまみれた 自己中心的な欲望の為に、命をかけて 殺し合いをしかける。 おそらく、主力メンバーが居るだろ う屋敷に、団体で堂々と乗り込んで いった。