井の中の水中



「やっぱりね。 あの最悪最低の代名詞みたいな奴なんだから、何かしでかすと思ったよ。 にしても……田村が拐われて、田村が平城にさよならって言われてから平城が気絶してる? あの姉が平城の看病?殴ってでも起こせ。あの田村に野郎の好きにさせていいのか。最悪あんな貞操皆無に犯されんぞって言えばいい。田村に限って平城以外に欲情する変態……いたか。アレも戦地に放り込めばいいよ。顔と身体はいいし丈夫だからね。……一度目が覚めた平城が泣きわめいた?子供か」

春樹がさっきから、電話に怒鳴り続けていた。ここは病院だけど、うちの 部屋での電話は大丈夫だ(家が用意し た特別な部屋らしいから) 春樹はあまりウチに隠し事もしないし、猫被ったりもしない。ありのままの春樹でウチと接してくれる。

春樹は、何て言うかな。 ウチがずっとずっと、春樹に秘密に してたこと言ったら。 春樹とクロの仲を壊したくなかった から言わなかった真実。お互いの為に 言わない方が幸せだった真実。 どうしようもなく悲しく、優しく、 残酷だけど救われる真実。

「……春樹」 「……友?」 「ウチを、クロに……ううん。沙弥に 会わせて」

カツンと携帯が地面に落ちた。ウチ の怪我はクロを想う女のコ達の苛めの末だと春樹は知っている。クロも知っている。だけど、クロはウチが生きていることは知らない。そして……春樹はクロが沙弥だと知らなかった。

「…………友、それは……本当なの か?」 「うん。やから、クロに……」 「何で……? 友は、クロに……」 「ウチ、何も恨んでへん。感謝してるくらいなんやで? それに、たくさんたくさん……今だってクロを苦しませてる」

クロが優しかったから、みんなはクロに惹かれた。 クロはウチを強いと言った。クロは ウチを好きだと言ってくれた。ウチを 大切な親友だと思ってくれている。 なのに、ウチはクロの全てを奪ったんや。こんな所で春樹とのうのうと生きている間、クロは誰かと幸せになる のを止めた。きっと、誰かと繋がりたい筈なのに、クロの心の奥底には誰にも受け入れられないようになってい た。

だけど、確信に近い希望がある。クロを助ける、光。

「ウチなら、クロを助けられる」

自惚れじゃない。ウチは、クロの心 の奥底に居る。ウチはクロの親友。クロの希望だ。 クロは、試合前には絶対ウチと話していた。ウチの声を聞くと、元気になれるらしい。

「春樹。ウチはクロが大好きや。クロもウチが大好きや。だからな、今でもお互い苦しみ合っててもそれすら合わせて大大大好きなんや! そんなクロがウチのせいで、自分す ら殺そうとしてる。んなの我慢できへん!は、春樹があかんゆってもウチはやるで! 這いつくばってでもクロに会いに行く!」

少し、悲しそうな春樹を置いて、壁を使って、一歩一歩、ゆっくりと歩いていく。クロに会って生きてるって言わないと、ウチは幸せやって言わない と。クロは、次に進めない。

「別に、行かせないとは言ってないよ」 「え……? わっ」

お姫様だっこされたようで、春樹は 少し呆れたように、ため息をついてい た。

「ねぇ、田村と再会したからって言って田村に惚れないでよね。田村は男みたいな奴なんだから」 「ふみっ! クロは女のコやで! あ と春樹以外に男の子に惚れてまうや ろーはない!」 「惚れてないの?」 「べった惚れ!」 「……子供か」


井の中の水中


ウチの世界が、あの病院から広がっ ていく。 せまい世界だったからこそ、幸せ だったんだろうと思う。だけど、広い 世界が過酷であっても、春樹にクロが 生きてるなら、ウチは迷わずにその世 界に足を踏み入れたい。

「春樹……大丈夫?」 「友……重っ……!!」 「ふにぃいいい!? 春樹デリカシーな いぃいい!!」

クロにたどり着く前も大変そうです。


▽△


「姉ちゃん……殺して下さい」 「無理」 「うわぁあああああああ!! 田村さん にフられたぁああああああああ!! 二 度と関わるなっていわれたぁああああ あ!! 死なせてくれ! お願いだか だっ!!」 「うっせーな、拷問すんぞ愚弟が。 ピーピーピーピー泣くんじゃねーよ。 ねぇ、琥珀ちゃん。やっべ超可愛い ハスハスしたい。むしろ食べちゃいた い」

(いやぁああああああ!! せ、刹那ヘ ルプミィイイイイ!!)

ロリショタコン(夜美)に見つけられた琥珀君はお持ち帰りされてました。