囚人の生き方



好きとか、嫌いとか、俺にはよく分 からねぇ。 だけど、他の奴等はしらねぇけど、 田村沙弥って奴は気にくわないけど、 すげぇムカつくけど、スゲー嫌だけ ど、……信頼できる奴だ。

「陸さん落ち着いて!」 「これは組の話ではありません!! カ タギのもめ事です!」 「う・る・せ・ぇ!! 離しやがれぇえ ええ!!」

「陸、貴方の動きで花鳥家が冷泉家に 喧嘩を売ったなんてナシになったら取 り返しのつかないことになるの。 田村沙弥はあくまで他人よ」

他人? ああ、他人だよなぁ。 ただのクラスメートだよなぁ。 ただのカタギだ。 ただのバカだ。 ただのお人好しだ。 ただの弱虫だ。 ただのスピード狂だ。 ただの甘党だ。 ただのただのただの……。

「ああ!! ただの俺のダチだよ! 花 鳥家? そんなに組が大切かよ!? まぁテメーにとっちゃ田村なんてガキ どうでもいいのかもなぁ!」

「……妹さんを、保護できなくなるの かもしれないのよ」

あのクソ女の口から、大切な家族の 存在が現れる。俺がここにいる理由。 妹のためなら、何時もなら、それが殺 人をした証しになるなら、何だってや るつもりだった。だけど、だけどなぁ ……。

「クソダチ一人助けられねークズが大 切な妹を守れるか! 顔向け出来るわ けねぇだろうがぁあああ!!」

「陸!」

「……テメーがそこまで言うなら、俺 にだって考えがある」

俺は目の前の女に渡されたうざっ てぇ燕尾服? みたいなのを脱いでビ リビリに破いた。地面に布切れが落ち ていって、ブラウスとズボンだけ着て る状態になる。

「俺は、花鳥家を抜ける」

「!」

「そして……。 冷泉の人間一人でもぶっ殺して田村 をぶん殴ってでも目ェ覚ませてやる!! だれがテメーの力を借りるか冷血 女! 花鳥家で死ねボケ!!」

俺が屋敷から飛び出して、前に会っ た冷泉恭真を殺すべく、無我夢中で 走っていった。

▽△

檻の外は何れだけ綺麗な世界なのだ ろうか。檻の中と同じような残酷な世 界なのだろうか。花鳥千歳は静かに佇 み、瞼を閉じる。

普通なら、同志が殺られたなら抗争 が起こる。しかし、今回は同志ではな いカタギのクラスメートだった。私情 で動いてはならない彼女は苛立ちを誤 魔化すように爪を噛んでしまう。

冷泉恭真も良いところを突く。決し て自分達が私達花鳥家に喧嘩を売らな いように、しかし確実に挑発を仕掛け ている。こちらから仕掛けた抗争な ら、もしこちらが勝とうにも周りの組 なら「私利私欲で組を動かした組長」 というレッテルを貼られる。自分のた めにも、組のためにもそれは避けなけ ればならない。

大梨言美から聞いた内容は、黒埼と 田村が走って逃げている彼らを追う平 城真也がいて、遠野刹那が行く手を阻 み、突如現れた冷泉紫苑が連れていっ たということ。言美は何か命令しない と出来ない子で、とりあえず平城真也 の後をつけるようにと命令しておい た。

また事が大きくなっている。どうす るべきか……。

「お嬢」

「どうした」

「よく取引で使われる廃倉庫が一 部……全壊しました」

「……は? 天変地異か? あそこは 外からは古びていても、かなり頑丈に 作られて」

「平城夜美です」

ああ、くそ。次から次に。 あの平城夜美による被害は過去から どれぐらいあるのか。殺し屋を雇って 彼女を暗殺しようとしたが、瞬殺。他 の組に彼女の情報も売ったことがある が、どの組も次々に消えていき、今郷 町全領域の支配を担当することになっ た。被害と利益をお互いの干渉無く繰 り返してきた仲だったが……今回は被 害か。

「……でも、最近彼女を売ったことは 無いわよ」

「何でも冷泉家の若と派手に殺りあっ たようで」

ああ、なるほど。 あの冷泉の若君もただ者ではなかっ たということか。私でさえあの化物に 一分もつかどうかなのだから、相当強 いのだろう。 しかし、いいこじつけができた。

「冷泉家は、花鳥家に喧嘩を売ってい るわ」

「……」

「このままじゃあ……組の面子が丸潰 れよ?」

「あっしらは、お嬢と共にあります」

嘘ばっかり。 だけど、それでいい。 お互い利用して利用されればいい。 ……でもね。

「陸……」

貴方の生き方が、本当に羨ましいの。



囚人の生き方



私もあんな風に、我を通したい。