善と悪の境界線




何を悪と呼べばよかったのだろうか。




「…悪いが、ここは通せねぇなぁ、平城真也くん?」
「刹那…!!」
「撤退を要求します。実行が完了されない場合は、私が貴方の排除を実行します」


田村沙弥を操り駆けていった黒埼リュウと、彼らを追いかける平城真也は、行く手に遠野刹那、皇琥珀、大梨言美がいることに気がついた。
だが、いち早く状況を察した刹那が、愛銃を取り出し平城へと威嚇射撃を行った。
驚く琥珀と、一拍遅れて武器を構える言美。睨みつける平城と、駆けていく黒崎に沙弥。ありえない組み合わせでの戦いが、始まった。






一方、倉庫内での戦いは、外の戦いとは比べ物にならないほど激化していた。
最強の破壊神である平城夜美と、絶対者の後継者である冷泉紫苑。双方、最高レベルの戦闘力を有する二人であり、その被害は計り知れないほどである。
とはいえ、純粋な肉体戦となれば、いくら紫苑とて、平城夜美に敵わない。
徐々に追い込まれていくのは一目瞭然であったが、彼は、余裕の表情を崩さない。
夜美の蹴りによって破壊されたパレットナイフを投げ捨て、口元に滲んだ血を拭い、駆け込んだ際に持ち込んでいた細長い布袋を足で蹴り上げ、瞬時に中身を取り出す。
それは、黒く煌めく日本刀であった。
舞の如く滑らかな動きで、その刀身を抜き放つ。妖しく輝くその刃は、素人目から見ても名刀であると分かるだろう。
すらりと抜き放った日本刀を構え、再び夜美へと向かい合う。
それを合図に、再びぶつかり合った。凄まじい音が響き、次々と地面が抉れていく。
全てを、壊して、壊して、壊して、壊して。対話は全て、攻防戦で行われた。
紫苑の振るう刃が夜美の身体を傷つけていく。それでも、彼女の身体はそれを瞬時に修復し、全くダメージとはなっていなかった。
だがしかし。決着がつくその前に、攻防戦の激しさにより、ついに倉庫が崩壊してしまった。


「…いない?」


自分の上に落ちてきた鉄骨を避け、埃が落ち着いて視界がクリアになったところで、夜美は紫苑の姿がないことに気付いた。
匂いは感じており、中にいると思っていたのだが、視界が晴れた途端、その姿を見失ったばかりか、どこへ行ったのかの目星さえ付かない。
本当に、忽然と、まるで最初からいなかったかのように姿を消してしまったのだ。
チッと舌打ちをし、とにかく先を行ったであろう平城の後を追う。
彼の匂いは、それほど遠ざかっていなかった。








「刹那!」
「うぉ、紫苑!?」

二対一の戦い。平城と言美、そして刹那の戦いを止めたのは紫苑だった。テレポートしたかのように突然現れた紫苑が、争いの渦中にいた刹那を腕を引き、また消え去る。
状況の飲み込めない琥珀は、ただ呆然と二人がいたところを見つめていた。
そのうち、夜美が追いついてくる。化け物並みの嗅覚を誇る二人には、彼らの行き先がわかったのか、頷き合って再び走り出した。

一体、何が起こっているのか。
わからないままに、琥珀も走り出す。残された言美は、とにかく状況を整理しようと、彼女が忠誠を誓う花鳥千歳へと連絡を取る。
事態は徐々に、大きくなっていく。