最高峰の強者の願い



「シン、沙弥ちゃんを追って。
 ここは私に任せて」


 死亡フラグにしか聞こえない言葉だ。しかし、平城夜美がその言葉を発っすることにより、それは死亡フラグとは別のちんけな狂気的な台詞になる。

 平城夜美は自殺を繰り返した女だ。因みに、彼女が自殺を始めたのは、僅か三歳の頃だった。最初は友達に死ねと言われて、崖から勢いで落ちただけだった。

 無傷だった。
 多少のかすり傷はあれど、一分もすれば傷は癒えた。その姿を見た友人は夜美を化物と罵った。
 それからだろう。彼女が自分の身体を大切にしなくなったのは。一番酷かったのは、彼女の中学生時代だった。

 壊れるために、戦い戦い戦い戦い、殺し、戦い、潰し、消し、殺し、戦う。

 彼女は、既に殺人を犯している。それは誰だったか、夜美には分からない。彼女は戦争をしてる中にたった一つの日本刀を持って暴れただけだった。

 結果、大きな戦争だったのにも関わらず、鎮圧した。彼女を英雄と称えた国もあれば、悪魔と称えた国もある。彼女の危険度が高まり、彼女は国の命令で他国の戦争に参加させられたのだ。ろくな装備も与えてもらえず、武器さえない。日本の法律外の存在として、家族に悟られないよう、海外へ出て戦争に参加した。

 結果、無傷で生還した。彼女はとんでもない化物だったのだ。国一つや二つ敵に回しても、勝ち続けるあり得ない最強の戦士。

 しかし、ただ彼女が死にたがりだったからここまで最強になったのではない。彼女は、戦うことが好きだった。それは冷泉恭真とは違う破壊衝動。

 ただ彼女は戦い、強者を潰し潰し潰し潰し原型が分からなくなるくらいに潰すのが大好きで大好きで大好きで堪らなかった。だから、彼女は今となっては折れて三秒で元に戻る骨も、千切れても生える手も、抉れても直ぐにもう一つできてしまう臓器も、我慢した我慢した我慢した!

 姉に背を向け走っていく我が同類。彼はまだ私みたいにならない幸せ者だ。死ねるなんて羨ましすぎる。彼女はあまりに生と死の境目に立ち続けた。


「ありがとう。シンを逃がしてくれたんだね」
「まぁ、外でなんか犬がいろいろ仕掛けてるみたいだけど、シンなら大丈夫でしょ」

「さぁ、戦おう戦おう戦おう。いいよその綺麗な顔ぐちゃぐちゃにしたい素敵過ぎて目から血ィ出そう! 敵になってくれてありがとう最高だよきみは強い強い最高だ! 私を殺せる? 私を潰せる? 私を消せる? さぁ、殺ってみろよ!」

「……ああ、負けるつもりもないからね」


 ……彼女が一番見たいもの、それは自分の死体なのかもしれない。


最高峰の強者の願い



「お姉、さーん! お茶しようよ。絶対お姉さんに、さらにその服に俺のオススメの喫茶店は絵にしかならない位に綺麗になるからさ! あ、お姉さんも綺麗だぜ?」

「理解不能。帰宅を命令します」

「大梨さんも嫌がってるし、帰ろうよ! 刹那」

「でも、ここであったのは運命だと俺は思うんだよなー。ってことで、お茶が嫌なら遊びに……」

「刹那ぁあああああ!! って、あれ……? 田村さんと……」


 絡み合う絡み合う。
 我を大切にする奴等が絡み合う。
 それがどんな運命を待ち受けているかもわからずに。
 無我夢中で、走り回る。

 絡み合う糸は、もうほどけない。