隙間からこんにちは



困った人は放っておけない……ある人は優しいだのある人は偽善者だの言うが、そんな性分だろう私が言えることは「さっさとこんな性分消えてしまえクソ野郎」だ。

 疲れる。非常に疲れる。
 困った人を放っておけないってのは、イコール放って置いたら罪悪感がたまってイライラしてしまうってことなんだ。朝から晩まで、しばらくの間その後悔に引きずられる。そんな感覚、分かるだろうか? むず痒くてイライラして自分がダメでクズでゲスな人間なんだとネガティブに陥る気持ちが分かるか?

 つまりの所、私は自分の為に他人を救済を嫌々している。極力しなくて良さそうなのは放置。


「ちょ、話してよ!」

「君、モデルのあみちゃんでしょ? 顔隠してるとかお忍び? いいねぇ、俺達とお忍びデートしよーよー」


 あの手の輩はなんであんな誘い方しかできないのか。……ああ、そんな脳みそがあったらとっくに女できてソイツと遊んでるからか。納得。
 見てしまったものは仕方ない。しかも路地裏の奥とまた見えにくい場所だし……。

 路地裏に入った時に、何故か私はまたそんな低脳だからこそ、真似しかできないありがちなフリョーみたいなイカしていると残念ながら勘違いしている輩二人が私を睨む。その二人を睨んでいた濃い琥珀色の髪に瞳をした綺麗な女のコも驚いた様子で私を見ていた。

 ……面倒臭い。


「おー、おーおーおー? 何ですか何ですかー? 王子様の登場な感じですかー?」

「(チッ。また私を男と勘違いしてやがる。何を間違え……休日に全身ジャージなのが悪いのか、そうなのか)」

「おい、何か言えぶべっ!!」


 私には力がない。
 だけど、男の急所くらいは知っていた。
 唯一、私の全身で誇れる足を思いきりスイングさせて一人の男の股間を攻撃した。相当な痛みだったらしく、泡を吐いて倒れた。……すっげ、こーなんだ。


「てめぇ!」

「!?」


 シュンッとギリギリ横をかすめたのはジャックナイフ。茶藤よりも下手過ぎて避けるのは容易い。だけど……股間攻撃しか出来ない私がどうやってコイツを倒すべきか……。

 だけど、ズンッと男の頭に何かが打ち付けられた。バタリと倒れた男の背後には、何処から探し出したのか……金属バットが握られてる。

 カランカランと金属バットが路地裏の地面に落ちて、私と、私が買ったことがある雑誌でも見たことある(中学買ってた陸上雑誌でも飲料広告とかでは必ず彼女が担当していた)モデルの九条あみは、奇妙な緊迫にお互い視線が離せないでいた。


「あ、あの……」

「……あ、何か一人でも殺れたっぽいすね。失礼します」

「いやいやいや! ちょっと待ってください! あたしが全部したみたいになってるじゃないですか!」


 とは言うものの、トドメは確実にモデルさんがしたしなぁ……。チラリと下をみればどちらもそうそう起きそうにない。私としては騒ぎになる前にさっさと退散してしまいたい所だ。……だけど、モデルをここに放置するのも、なぁ……。

 ポケットから取り出した対茶藤用(ジャックナイフ振り回す癖に変装する気なしの馬鹿)の帽子にメガネをモデルさんに渡してから、手首を引っ張って路地裏から出た。

 とりあえず、安全な場所に行くか。


▽△


 そこで公園をチョイスした私は馬鹿なんだろうか。
 ベンチの片方に腰かけて、子供達がキャイキャイ騒いでいる姿を眺める私に、奢った紅茶の缶ジュースを飲んでいくモデルさん。住む世界が違うからか、私達の距離はどうも縮まらない。別に縮まらなくてもいいのだけど。


「あ、ありがとうございました」

「いや、むしろ貴女が殺ったことですし、私は関係ないですよ」

「……私?」

「私は女です」


 何かモデルさんは、ちょっと驚いてたけど、まだあの人よりはとかブツブツ言っていた。意味が分からない。しばらく沈黙が続いて、耐えられなくてさっさと帰ろうとしたら、服の袖を掴まれた。


「…………?」

「今日のこと、バラさないでくれませんか?」


 ……まぁ、モデルが不良を倒しましたなんて流したら問題にはなるか。だけど、何だろうか……弱々しさを彼女からは全く感じられない。むしろ、花鳥さんや大梨さんみたいな雰囲気が少しある。

 ああ、そーゆーこと。


「そこまで野次馬精神はありませんよ、私」

「……?」

「九条さん、これからも応援しています」


 私が珍しく、モデルの名前を覚えていたんだ。そんなモデルの未来を奪うようなことはしないよ。


隙間からこんにちは


「九条あみって、可愛いよね」

「……田村? 芸能人に恋しても無駄だよ」

「ファンなだけだしだから私女だから!!」


 これは、一人のファンが九条あみに出会った場合の話である。