人形の各幸せ



「こんにちは……って、何してるの?」
「……お主は誰じゃあ!」


 春樹以外の人が、何故か病室に来た。面白くて楽しくて、そんなことを口にしたらクスクスと笑みを浮かべる目の前の男は酷く綺麗だった。
 うちの白い髪に白い肌や、紅い瞳は何時だって浮世離れイコール「恐いオバケか」と非難されたり「綺麗」とかも言われた。対して、目の前の男は私とは真逆の黒。なのに、凄い存在感にお人形みたいな綺麗な顔に完璧なスタイル。

 ふみ……黒い髪はね、クロと一緒なのに、クロと違う……。クロは、もっと明るくて……ああ!


「漆黒!」
「は?」
「漆黒さんや! ふみゅみー。ふっふーん。えいしょ、えいしょ、なんやからお茶でも飲みますー? あ! オススメはこれ! 梅茶に梅とレモンを追加したアオ特性梅茶!」
「ふふ、じゃあそこにあるコーヒーお願いしようかな」
「……うう。春樹みたいに貶してくれたらツッコミなんやけどなぁ。クロなら無理矢理飲むんやろうけど……ぷっ」


 そして、クロの名前を耳にした春樹は不機嫌になって梅茶飲むんやろーな。マズイマズイこれ人間の飲むものじゃないとか言いながら、無理矢理飲み干すんやろうなぁ。

 笑っていたら、その男の人はウチの肌や髪に触ってきた。やっぱり、アルビノって珍しいんやろか?


「ふぅん……よく、もつよね」
「ふみゅ?」
「実の親に捨てられたり、新しい親に装飾品扱いされて愛を授からなかった君は、親友のせいでこんな状況になって笑ってられるのは凄いよ」
「何でお前がここに居るんだ!!」


 いきなり扉を乱暴に開けて入ってきたのは、春樹だった。あんな春樹は流石に一回くらいしか見たことがない。
 春樹は私と漆黒さんを無理矢理引き剥がして、漆黒さんを睨み付ける。
 あ、質問答えてないや。


「あのね、あのね、漆黒さん。うちはねむに」
「コイツと話すな耳も口も腐敗する」
「ふひゅー! 腐敗! 落ち葉になるん!?」
「ああ、なる。腐りきってボロボロになる」
「酷い言われようだね、早乙女君」


 それでもニコニコする漆黒さん。ああ、M属性なのかな? それを言おうかとしたら、視界が春樹の背中一杯になった。あれ、見えないよー? 春樹ー?


「……友を汚すな。お前が近寄るだけで、友が汚れる」
「じゃあ、君に近付こうかな」
「アハハ。貴方は大人のくせに暇人なんだね。そのまま家に引きこもってニートになって親に迷惑を」
「うん、暇なんだよ」


 部屋に響き渡る漆黒さんの言葉は、体育館の校長先生のおはようございますよりもよく耳に入る凛とした言葉だった。春樹の手が、私の腕を掴んで見失わないようにしてるようで、春樹のチラリと見えた横顔は、何処か焦っているようにも見えた。
 

「だから、君達に会いに来た」
「帰れ! 今すぐ帰れ!! 僕や友……今郷町に二度と来るな!」
「それは無理な相談かな。君や平城君には特に興味があるんだ。それに……あの妖怪を悔しがらせたいしね。ほら、聞いてて楽しそうでしょ?」

「お前は、最低な化物だ」

「あっ、あ! 漆黒さんさっきのなんやけどね! ウチには春樹がいるし、クロも居たから幸せなんよ! 漆黒さんもそんな人できたら絶対毎日楽しいんよ!」
「友!」
「あひゅひー」


 春樹に頬を引っ張られた時、チラリとこちらを見て笑みを浮かべた漆黒さんが消えていってしまった。
 何か……寂しい人だなぁ。


モノクロサッド


「とーーもーー?」
「うひゃあい! はるひいひゃいーー!!」
「あの男を、知らない人間を部屋に入れる君の行動は幼稚園児でも分かるくらいいけないことなんだよ? 赤ちゃんからやり直さなきゃいけないかなー?」
「ご、ごめんなひゃいー!」


 ああ、でもウチは幸せだ。