危険地帯一歩手前



痴漢する奴を心配するなんて、世界で私だけなのかもしれない。
 茶藤と、とある街の凄く美味しいと聞くケーキ屋に向かうために電車に乗った時だった。そして電車は休日だというのに満員で、私と茶藤は電車に流れるように入っていったんだ。問題は茶藤が綺麗な顔立ちということと、かなり短気だということ。人が一人くらい挟まった向こう側で、茶藤の尻はキモいオッサンに撫でられていた。


「は、ハハハハ。コロスコロスコロスコロスコロスコロス」

「(茶藤おま、ナイフを電車内で出すんじゃねぇよ!!)」


 確かに気持ち悪いのは分かる。女に間違えられているのか、またオッサンがそーゆー趣味なのかは分からないが嫌なのも凄い分かる! だがここで殺るな! 血まみれになるし今郷とは違ってここで殺ったらすぐ警察飛んでくるから!

 オッサンが茶藤に何か囁いた瞬間に、ビキリと何かが割れた音がした。終わった……そう思った瞬間に、痴漢していたオッサンの手が何者かによって捻りあげられてた。


「エライ下種いことすんな、オッサン」

「な、何だね君は!?」

「何だね? 自分がやってたことは置いといて被害者ぶんなよ」


 茶藤と同じ綺麗な銀髪に、不思議な青と紫のオッドアイの……しょう、ねん? はギロリと痴漢したオッサンを睨む。オッサンは痴漢していなかったとばかりに、突然容疑者にさせられたような、とりあえず言い訳見苦しいことばかり言っている。


「あのー」

「っ! 田村! てめー遅いんだよ!」

「なっ、男!?」

「(やっぱり女って思ってたかこのオッサン)その人、男趣味なのか茶藤のケツを左手で茶藤の左手側を撫でたり揉んでたりしてました」

「何でそんな的確に説明してるの!?」

「あ、琥珀」


 今度現れたのは可愛らしい琥珀色の髪に瞳をしたしょう、じょ……いや、男だった。
 そんな皇琥珀(すめらぎこはく)さんのツッコミと共に、次の駅で痴漢は捕まり、茶藤は一発殴らせろむしろ殺させろとうるさく、駅員さんから逃げるように次の駅まで電車に揺られていた。
 そして、何故かオッドアイの男前な女らしい遠野刹那(とおのせつな)さんと琥珀さんと一緒にケーキ屋に行くことになってしまった。


▽△


(何故こんなことに)


「そっかそっか。田村沙弥(たむらさや)に茶藤陸(さとうりく)だな! 俺は刹那だ」

「俺は琥珀って言うんだ、よろしく」


 ……何と言うか、生まれてくる性別を間違えてしまったカップルにしか見えない。シュークリームを一口噛みついて、三人の眉目秀麗に囲まれてた私は悪い意味で浮いてる。むしゃむしゃと噛んでいたら刹那さんの手が伸びて今さっき食べ方からついてしまったシュークリームを指ですくいとり、舐めて食べた。


「ん。うめーな!」

「…………」


 何つーか、私よりも男らしい。むしろ男だろと言いたくなってしまう。そんな刹那さんの様子に苦笑を浮かべてるのか、呆れてるのか、妬いているのか、ただ琥珀さんは頭を抱えている。なんか……苦労してそうだよね。


「にしても、お前もかなり美人だよなー」

「あ? ふざけんなよ殺すぞ」

「茶藤落ち着け頼むから落ち着いてくれ」

「あら、殺人の標的は私だけって約束したでしょう? 陸」


 ケーキ屋にはいつの間にか人はいなくて、がしりと茶藤の頭を鷲巣かみしたのは花鳥組花鳥様でした。その背後では目を光らせた大梨様の姿が。


「てってめ! 何処からわきやがった……」
「け・い・ご・は?」
「……ですか!?」

「ふふ、陸が田村さんとデートしてるって聞いて、私達……居ても立っても居られなかったの」

 ……それは、殺したくて仕方ないということでしょうか? 
 私の身の危険も感じた瞬間に、刹那さんは席をたって、今一人である大梨さんの近くに歩みより、手をとった。


「お嬢さん。今から俺とケーキ食べませんか? きっと……いや、絶対、お嬢さんみたいな可愛い女のコとケーキを食べれたら、百倍美味くなると思うんだ」

「陸を材料に完了するなら了承を賛成します」

「ちょ、刹那! 何口説いてるの!?」


 わー。刹那さん、女のコだけど女のコ好きなんだ。あーゆーこと中坊ん時にやらされたりしたけど、自分でやるとは……凄いよ刹那さん。本当に男の子みたいだ。

 乱闘になりそうなので、そっとケーキ屋から抜け出したら案の定、何かが割れたり破壊される音が店内から響き渡る。良かった、逃げ出して。

 そっと店から離れようとした時、何か不思議な感じがして振り向いた。今しがた通り過ぎた銀髪のよく似た、いや双子だろう少年達が楽しげに会話をしている背が目に入り、何となく……羨ましいと感じてしまった。

 さて、安全地帯へ帰ろうか。


危険地帯一歩手前


 翌日、痴漢を捕まえた少年がいると町内新聞にかかれ、さらにあるケーキ屋が潰れたとも書かれた記事があった。それを目にした私はそっと新聞を閉じ、見なかったことにした。