敵を知る前に危険を知れ!



「沙弥さん。お願いがあるんです」


 なんでだろう、嫌な予感はするのに、女の子にお願いされたら断るにも断れないのは。
 中原歩実は女の武器を全て駆使してあの人の良い田村沙弥にお願いをしている上、周りには番犬(平城真也)も毒舌(早乙女春樹)も居ない。もはや受けなければいけない話だった。

 ということで、中原歩実に頼まれた通りに冷泉家に侵入してしまった訳だ。その依頼を受けた時に偶然来た平城真也に、普通に冷泉邸が気になると言った竹松伊織と共に。


「で、でけぇ……」

「ウチの道場何個くらい入るんだろー…」

「さぁな。これは強行突破するべきなのか?」

「おまちょ、何バズーカ持ってきてんの!? つかどっからだしたの!?」

「四次元ぽけ」
「サーセン他の版権だけは使うなぁああああ!!」

「人の家の前で、何してるの」
「あだ! 先輩私帰りた……あ、そこの子は」

「九条あみさん」


 久しぶりに人気アイドルに再会しました。


▽△


『ふぅん。その情報が欲しいならそれ片付けてね、じゃ』

『超フリーダム!!』


 そう私がつっこんだのは何時間前だろうか。大きな屋敷に入れられて、黙々と書類を片付けていく竹松に、たまにチラリと私をみて少しだけ笑う平城、あと先輩めと呪うように苛立ちを書類をぶつけるように片付ける九条あみさん。
 とりあえず、あの男はただ者じゃない。


「あ、あの」

「えと、九条さん……だったね。俺は平城真也。隣のじゃ……メガネかけてる方が竹松伊織で、そっちの女の子は田村沙弥ちゃんだよ」

「あ、私は九条あみです」


 九条あみさんは人気モデルの筈なのに、何で二人は反応が薄い。むしろ私の方がそわそわしてるのは何でだ。あと、平城……悪かったな、私もジャージで。


「あ、た、田村さん。ジャージも凄い似合ってる!」

「真也。フォローにはなってない」 

「え、ええ?」

「はぁー…。あ、九条さん後でサインとか貰っていいっすか?」

「あ、いいですよ」


 やた、ラッキー。
 私は上機嫌で平城は不機嫌で、竹松は変わらず書類に再度片付けようとしたら、九条さんが可愛らしい声を呟いた。


「貴方達は……恭真さん、あ、いや……冷泉恭真さんについて調べようとしてるんですか?」


 そう、今回歩実にお願いされたのは、どんな些細なことでもいいから、冷泉恭真の情報を得てほしいということだった。何が理由でどんな思惑があるかはわからないが、まぁ断れないのでとりあえず、冷泉先生の家らしい所まで来たんだ。平城はかなり不機嫌というか、最後まで行かない方がいいと粘ったけど、一度した約束は死んでも守るのがスジってものだろうとここまで来たわけだ。


「あの人には、関わらない方がいいですよ」

「ほう。何故だ小娘」

「こむ……!? 竹松、九条さんは私……いや、モデルなんだから私やお前が好きな夜美さんよりはスタイルはい、」
「黙れ背骨」

「骸骨じゃねーか潰すぞメガネ」

「伊織ー…?」

「……悪かった。おい、娘、理由を答えろ」


 平城が指の関節を鳴らしたあたりで素早く竹松が謝る。風来先生もだが、本当に柔軟性が長けてるというか、臨機応変だなぁ。
 九条さんはボールペンを机に置いて、とても深刻そうな表情で冷泉先生の話をしていく。


「あの人は、確かに見た目は凄いいい人なんですけど……凄く、凄く歪んだ人間なんです。例えるなら……人形、人形みたいで、感情が欠落してる人で……だけど、気に入られたら終わるんです。あの人に、気に入られて壊れなかった人を、私は見たことがありません」


 え……何これ、ドラマか漫画かなんか?
 いや、それが真実ってのは分かるよ? 九条さん真剣だもん。だけどさ……なんというか、凄い浮世離れした話題でついていけない。


「分かってるよ、九条さん。だから、敵のことはよく知らなきゃダメなんだ。大切な人を護るためにも……」


 ち、ちょ、平城君……ついていけない。もうちょっとスローペースかもしくは私に分かりやすい状況説明をお願いします。


「……冷泉先生のお気に入りって、何で壊れるの? つか人間って壊れんの?」

『…………』


 ゴメン、今空気読めてなかったね。


ごめんなさい



「(すぐ嵌められそうな子だなぁ)」
「(田村さんは俺が護らなきゃ)」
「(阿呆)」


 ああ、視線が痛い。