戯れの在り処



世の中とは非常に不公平なものである。何が不公平かと上げていけばきりがないが、とにかく、不公平だ。
美しい人間がいれば、醜い人間もいる。金銭に恵まれた人間もいれば、泥水を啜る人間もいる。学術に優れた人間がいれば運動能力に優れた人間だっているし、もっと言えば、そもそも人間の価値的にかなりの格差があるだろう。どこぞの詩人の言葉ではないが、人間というものは皆違って、だからこそいいのだ。同じ人間が大量に存在していたとするなら、それこそ、存在の意味を見失うことになる。
不公平でないということは、平等であるということは突き詰めればそういうことになる。
それだというのに、どうして人間は揃いも揃って平等という言葉を欲しがるのだろう。


「…ということを先日あの方に尋ねられましてね、私はこう答えたんですよ。…人間というものは上っ面の美しい言葉や高尚な理念が大好きですからね、と」


いきなりやってきて、この子は何を言うのだろう。
地下にいたはずの歩実が思い出したように上へと上がってきて、花鳥に向かい合ってすぐ、先ほどの台詞を口にした。
あの方、というのは、言わずもがな、最近こちらを騒がせている恭真のことである。
先日も派手にやらかしてきたらしい。爆発の被害に遭ったとみられる状態で帰っていた歩実を見たときは、さすがに驚いた。犬神の彼女がそうであるというのに、翌日学校で見かけた恭真の身体に、傷一つないことにもまた驚いた。
軽く聞いただけではあるのだが、相当険悪な雰囲気になっただろうに、どうしてこんな禅問答のようなことをしているのだろう。
やはり、自分の思考回路では、彼らが何を考えているのか、麟片でさえも掴むことが出来ない。


「そしたらあの方がまたこう尋ねましてね…じゃあどうして、そんなにお綺麗な言葉に惹かれるんだろうね?と」


歩実は実に楽しそうである。とはいえ、結局のところ、好いているのか嫌っているのかさえ正確には読み取ることが出来ない。
生き生きとした表情の歩実は、そんな思いを巡す花鳥に、さらに話を続けた。


「その質問には、こう答えたんですよ。素敵な言葉を喋っていれば、自分も素敵な人間になったと勘違いできる極めて幸せな人間が多いからじゃないですか?と。そしたら、あの方はまたこう言いました。…さて、歩実ちゃん、ここで問題です。ここで愚かなのは、平等を謳う人間と、平等を厭う人間、どちらでしょう」


その質問を、無意識に花鳥も考えていた。ここまでの話から、正解は後者だろうと予測をつける。
けれど、そんな誰にでもわかる問答をするような二人だろうか。
花鳥は黙って続きを待つ。その視線を受けて、歩実は見惚れそうなほどに無邪気さの混じった笑みを零して、口を開いた。


「私はこう答えました。…ああ、簡単です。答えは、どちらも。平等という理念を感じて、それについて感情を持つ時点で、どっちもどっちだとしか言い様がありませんね」
「彼は満足そうに笑って言いました……正解。つまり僕等は、どちらも愚かと言うわけだ」



まぁ、ただの言葉遊びですがね。
そう言って、お茶を啜る。とても穏やかな、ある昼下がりのことだった。