独り歩きのマリオネット
早乙女春樹がリバースしました。
「ぅえ……キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい何がキモいかって言ったら存在がなんかもう嫌……田村、水」
「ん。……つかさ、冷泉先生、普通にいい先生じゃん。しかも何て言うか……気品とかあるし。私は憧れるなー」
「田村の目って賞味期限オーバーしてるから、変えなきゃダメだよ」
「腐ってるってか。腐って何も見えない状態ってか!? あくまで客観的意見を述べただけなんだけどな!!」
でも、まさか臨時教師だったなんてと驚いたのは事実だ。しかも、手にキスするようなくらいでクリームを舐められたのは覚えている。あんな笑顔で見られちゃあ恥ずかしいったらありゃしない。あれは天然性だろう……怖い怖い。
「田村、僕が間違ってた。目じゃないや。全神経が終わってる」
「もはや私を全否定してますね!!」
「あの男を見て何も思わなかったの?」
「え……と。綺麗で、上品で、坊っちゃんぽくて……くらいか? 冷泉先生のこと知らないからなー」
「だからお前はプラナイアなんだよ」
「再生能力のあるすげぇやつじゃん! 何で私がソレ?」
「対して知能の無いけど、打たれ強い所とか?」
「なんかそれ凄いヤダ」
「田村さーん……早乙女ー…。ちょ、ちょっと良い?」
教室にいる私達を手招きしたのは苦笑を浮かべる平城。
と、後ろで穏やかに笑みを浮かべている冷泉先生を見つけた瞬間、早乙女が盛大な舌打ちをかましました。
▽△
「何で僕を巻き込むかなぁ」
姉ちゃんが来るんだ。
一見、シスコンみたいな発言だけど、それだけで私や早乙女が呼ばれた理由が分かった。
何故か冷泉先生もついていたけど。
「平城君のお姉さんはどんな人なんだい?」
「えーと……。風来先生がスッゴイ好きですね。あと、ちっちゃい子供みたら食べたいってよく言ってます」
「何で警察はアレを放置するの」
「アハハ……警察というか、国(法律)的に放置された感じなんだけどね……」
姉をそんな風に言って良いものなのか……?
まぁでも、その位あの人は異常だ。それがコンプレックスっぽいけど……。
「ふっうっらっいっ、さーーん!! 風来さんの一番犬夜美が参上しました! さぁ、ムカつくヤツをおっしゃって下さい! 直ぐに片します!!」
「落ち着いて夜美。とりあえず、伏せ」
マジで伏せやっとるがな……。
一見、ただのSMをしてるようにも見えなくない。私や早乙女、平城がドン引きしてた時に風来先生が私達に気づいて、何かに慌てそうになった、瞬きを一度した後に夜美さんは目の前にいた。
「うおっ!?」
「!」
「お前、誰だ。風来さんの味方か? それとも敵か?」
「夜美、落ち着きなさい!!」
「敵なら、コロス」
ぽすんっと夜美さんから煙が爆発した瞬間、目の前にいたのは赤ん坊……ああ、殺すって言ったから伊織の薬が効いて赤ん坊になったのか。
「あう、ぅううううう……!!
れ、ろっちなにょよ!!」
「へぇ、面白いな。これは手品?」
「わかにすんにゃ!!」
冷泉先生の夜美さんの抱き上げ方も、素晴らしく微笑ましいシーンみたいな感じだったけど、風来先生が夜美さんを取り上げた。無意識にしてたようで、我に返った風来先生の視線が泳いでる。
「あ、の。すみません冷泉先生。
こ、この子凄いじゃじゃ馬さんで! 冷泉先生の手を煩わすのもと思いまして!」
「ふーらいしゃん!? てめーふーらいしゃんににゃにあやまりゃへてるらー!! ふっこりょしゅ!!」
「わー!! す、すみません!! すみません失礼します!」
逃げ足は元陸上部の私からみてもなかなかの速さ。フォームを良くしたらもっとタイム切れるな……。
そうしたら、カツリと背後から足音が聞こえて、振り向いたらあたりを少し見渡している竹松が立ちふさがっていた。
「真也。ここに夜美が来たのか?」
「あ、伊織」
「…………誰だ? そやつは」
「初めまして、冷泉恭真です。しばらくここの教員をすることになったんだ。よろしく」
ニコリと、それはもうイケメンに笑顔が加わり騒ぎを聞き付けた生徒がそれを見てノックダウン。うっわー…やっぱり世の中顔だよねー…もっと可愛い顔に、せめて女らしくなりたかったと対して努力してもないのにひがんでしまう自分が嫌だ。
竹松は相変わらずのジャージに白衣、あとメガネで、風来先生より更に幼い(つまりやや童顔)な顔を変えること無く、風来先生を眺めていた。
「…………真也、これは幽霊か妖怪かか? 二ノ宮金次郎ならぬ海外の銅像か何かが服を着て話している様にしか私の目には見えないのだが」
「伊織。その人、人間」
「…………はて、哺乳類ヒト科にしてはこう……。親近感が湧くものだな。機械や細胞相手に話しているみたいだ」
「あながち間違っちゃあいないよ、間違っちゃあ」
人間、細胞で出来てるみたいなもんだし。……って、お前細胞や機械相手に話してんの? 何て言うかさ……私が愚痴聞いてあげようかなんて言いたくなる。
クスクスと上品に笑い出す冷泉先生はやっぱり、スイスとかに居そうな人に見えてしまう。そんな先生を見て竹松は。
メスを取り出した。
「なるほど、面白い。是非解体させろ」
「伊織! 解体ダメ絶対!!」
「何故だ真也。リアル人形……いわばバー〇ー人形みたいな中身は見てみたいとは思わないのか。
私の夢の一つは夜美かダコ〇・ローズみたいな人間場馴れしたヤツを解体することだ!」
「中身は全部同じだから! どんなイケメンでも美女でも中身は全部ぞ、つか美少女になんたることうぇ気持ちわり……」
「ちょっと吐かないでよ。汚物×汚物なんて考えたくない」
「私は汚物じゃねぇええ!!」
「うっへぇええええええええええええ!! やっべぇ何このシチュレーション!! 竹×冷前提の平→竹×冷……!! しかもヤンデレ志望ですかそうですか!! ああそのメスで素敵な肌を傷つけて「僕が愛した跡だよ」なんてきゃっ!」
多分騒ぎを聞き付けた生徒の一人だろう出雲さんは、紅潮した頬を両手でおおい、いまだに生モノ(しかも本人が目の前にいるのに関わらず)のヤンデレだ三角関係だと興奮気味に一人の世界に入り込んでる。
夜美さんの件よりさらにドン引きしてる私達。そんな中、クスリと笑った冷泉先生が興奮状態の出雲さんに語りかける。
「ねぇ、そのメガネとってみてよ」
「!? あ、竹松君の素顔を見て「こうしたほうがキスしやすい」なんて言って大人のキスを公衆の面前でしちゃって……!!」
「出雲祐希ちゃん。君に言っているんだよ」
ピシリ、と出雲さんが固まった。次の瞬間ガタガタと震える出雲さんの姿を見るのは初めてで、私達は面食らった。出雲さんは言葉を失っていて、牛乳便みたいなメガネの奥は、きっと目が凄い泳いでるんだろう。沈黙に耐えられなかったのか、出雲さんは背を向けて何処かに行ってしまった。
「出雲さん!」
「……綺麗でも、壊れ物には興味ないな」
私が出雲さんを追いかけようと駆け出そうとした瞬間、酷く冷たい声色が耳にはいった。絶対的な恐怖。恐る恐る上を見上げたら、何時も通りの整った柔らかい笑みを浮かべる冷泉先生。
だけど、冷泉先生の甘い毒みたいな声が、凄い鋭い毒みたいに変わった声が耳から離れなかった。
独り歩きのマリオネット
やっと、早乙女が言っていた冷泉先生には何かがあるってことの意味がわかった。