美的感覚に付随する本質について



面白い子に出会った。


「貴方は、アレですね。ゲーム機みたいです」


今まで生きてきて、人形やら彫刻やらとにかく無機物に例えられたことは多々あれど、さすがにゲーム機などと言われた経験は初めてだった。
中原歩実(なかはらふみ)、という名の犬神らしいその少女は、久しぶりに愉快な切り返しをしてくれる。
綺麗なものが好きだ、という僕の言葉に対して、実に興味深い返答をする。
汚いものを見た反動か。それは違う、僕は汚いものも好きだ。もちろん、それは外見が美しいものに限るけれども…そう、僕はどうやら他人とは一線を画した価値観を有しているらしい。
見た目は綺麗じゃなくても、中身が美しければそれでいい。
そんな一般論には吐き気さえ覚えるほどだ。なぜ、見た目が綺麗ならそれでいいじゃないか。それが作り物だろうがなんだろうが、中身が汚かろうが、美しいものには所有欲が芽生える。いや、これは破壊欲だろうか。
綺麗なものは、この手で完膚なきまでにずたずたにしてしまわないと気がすまないのだ。まっさらなそこに歪みが生じて、そこから崩れていく様が堪らない。
美しいものほど脆いのだ。
今のお気に入りは、やはりあみちゃんかもしれない。
あの子はいい。どれほど僕が手を加えても、崩れそうなところでいつもギリギリ踏みとどまる。壊れる寸前に持ち直して、勇ましく僕を睨んでくるその瞬間など、エクスタシーに似た享楽さえ感じるほどだ。
だから、まだ壊れないで欲しいな。


壊れたら、もういらない。




「そうだ、あの子もいいな。…田村沙弥」
先ほど出会った彼女。特に欲しいとは思わないけれど、中々面白そうだ。
脆そうに見えて強いところとか、強いくせに脆いところとか、うん、いい。暇潰しくらいにはなるかもしれない。
さっき見かけた綺麗な男の子…中原実(なかはらみのる)、といったか。
吸血鬼らしいが、滅多に見かけないほどの美形だ。最初の印象とはだいぶ違ったが、まぁあれはあれで面白いだろう。欲しがるなら、血もあげて構わない。


「いいなぁ…久々に愉しめそうだよ」





窓ガラスに映る、舌なめずりをした自分の姿は、さながら血に飢えた獰猛な獣のようだった。
何年経っても衰えることのない美しさを誇る自分の顔を無感動に眺めて、笑った。



「俺は、退屈が、嫌いなんだ」