風邪引きちゅう移!



「さや、さやぁ」
「……なるほどな」


 最近何で真也が発情期に入ったのか、やっと分かった。まず、下品だとは思うが、交尾はそもそも何のためにすると思う? そう。子孫を残すためだ。人間にもその本能は残ってる。あくまで私の考察なんだけど、思春期の時期は若いから、その元気な遺伝子で強い子を作りたがるのかなって思うんだ。
 ちなみに、一番子孫を残さなきゃならないって思うのは、やっぱり死ぬ前だったり、弱ってる時だったりするらしい。つまり。


「ごほっ、ごほ……あちい……」


 真也が熱を出しました。


▽△


「さや、すき……ごほっ! うぇ……」
「あーもー…ちゃんと寝てろ」
「さや、かわいい」
「あ、ありがと……」
「……あ、かぜうつる……はなれたほうがいい……」
「真也の家族、なんか皆用事みたいだから私が看病することになってんだよ。気にすんな」


 全て平城真也の父、平城正太の仕業ということは私には分からなかった。
 和室に布団を敷いて眠る真也は、意外に色っぽい。何時もは穏やかで見てて和むんだけど……着流しや首筋に時々伝う汗とか、掠れた声に荒い吐息。これは、フェロモンなのか……?



「さ、や……」
「どうした?」
「手、にぎって……?」


 男でも、こんなおねだりをされたらときめかない女はいないと思う。さらに好きな人のだからな。
 おそるおそる、真也の手を握ったら、ふにゃりと幸せそうに笑みを浮かべた。コイツ可愛すぎる。


「さやのて、つめたい……」
「お前が熱すぎるだけだよ」

「さや、……いい?」


 何を言いたいか分かった。食いたい、と言ってるんだ。本能に忠実になった真也はゆっくりと起き上がって、私に詰め寄る。じっと座って、息を飲んで彼を見ていたら、ふっと笑みを浮かべられて、静かに押し倒された。天井には欲情と熱に犯された真也の姿。


「……さや」
「……ちょ、ダメ」
「がまん、できない……」
「ダメだってば、真也……」


 まともに思考回路が働かないのか、顔色が悪いのに、私に構ってとばかりにスリスリ抱き締めてくる。ちゃっかりお尻撫でたりしてるし……。
 逃げられないのか。覚悟を決めてギュッと目を閉じたら、真也と私が引き剥がされた。


「真也。可愛い可愛いレディが風邪で看病をしにきてくれて、嬉しくて堪らなくて我慢出来ないのもよーーく、分かる、が! そんなことをして風邪が移っちまったらどーすんだ! 風邪で苦しむレディなんて俺は見たくない! 即刻、彼女を愛してるならその行為は止めろ!」
「ご、ごめんなさい! せ、刹那ぁ!」


 遠野さんと皇さんのおかげで助かりました。


▽△


「私を女扱いしてくれる人は真也以外いないと思ってた……」
「そんなことないさ。君は十分に魅力的だ! あと風邪が移ったらダメだから琥珀に沙弥は離れていた方がいい」
「……ムカつく」
「平城君、なんかゴメンね……」


 二人が来てから、真也の看病は刹那(と呼んだ方がいいらしい)がしてくれていた。手際もいいし、私なんかより真也の病状が治るのも早くなるだろう。
 あと真也ゴメン、刹那に一瞬ときめいてしまった。


(女扱いされるのは慣れない)

「……テメー、治ったら覚えとけよ……げほっ!」
「あー! 咳は手で抑えろバカ! 時速二、三百キロなんだからな!! レディに風邪が移ったらただじゃすませねぇぞ!?」


 恨めしそうに真也が刹那を睨んでいたことはスルーしたい。


風邪引きちゅう移!

「なんかゴメンね、……琥珀ちゃん」
「(田村さん! 俺、男!)」


 勘違いが、またここに一つ。