気に入らないアイツ



「……彼氏が発情期なんですけど、どうしたらいいですか」


 こんな質問、誰にすればいいか分からなかった。
 あの事件から真也はよく抱きつくし、キスをせがむ。……それだけなら恥ずかしいのは我慢できる。だけどな、上手く人気の無いとこ連れ出してヤろうとする……っても、本人に自覚は無く、かなり危ないレベルのじゃれあいなんだけど……。多分、欲情して何も考えられてない状態なんだろう。お前は盛りの犬か。


「それを、何で僕に?」
「……周りにロクに相談できる人間がいないからです」


 純情か毒か有害しかいない。ならば、この男に質問するのが一番妥当だろうと思う。


「なるほど。
 じゃあ、もうヤっちゃったら?」
「元も子もない!」


 確かにそれが一番簡単な解決方法だけれど! お、お互い高校生だし……もうちょっとお互いをみたいとか行ったら、ケラケラと笑っていた。綺麗な顔立ちにソレは確かに絵にはなってるけど、本当に笑っている気がしない。


「若いね。俺、高校生の時はもうしてたなー」
「……まぁ、あり得ない話ではない。うん、うん……」


「アブノーマルに男とも」
「ぶふぉ!? あ、あんたバイ……!?」
「今更?」


 見境無しとはこういうことか。彼曰く、可愛い子、欲を言うならナイスバディな美人がいいらしい。な、ないす……ばでー…。


「……どうしたの? 胸を押さえて……」
「……何にも、楽しめないんじゃないかなー…」
「……ああ、大丈夫。平城君なら沙弥ちゃんだったら男でも女でも抱けると思うよ」


 喜んでいいのか、女として嘆くべきなのか……。
 先ほどから冷泉恭真さんのアドバイスの威力が痛々しい。や、やっぱり……女らしく……しなきゃ……。


「沙弥ちゃんは沙弥ちゃんらしくすればいいと思うよ。
 にしても、アレだけのことしてよく俺に普通に相談事出来るね」
「……だって、冷泉先生にしか相談出来なかったし……」
「ん? 口説いてるの?」
「口説いてません。それに、それぐらいじゃなびかないでしょう」
「相手をするくらいなら出来るよ。平城君があわよくば俺を殺してくれるかもしれないし」


 ニコニコと、大して期待していないくせにそう言う。あの事件は大体私のせいでもあるから、この人を許すとか許さないとかの問題じゃない。私を許せないんだ。友達をあんなことに巻き込んで……ん? 関わるなって言って関わったから別にいいのか? ……まぁ、いい。


「……私も、感謝してます」
「え?」
「でも、ムカつきます」
「……ふぅん」


 何がともあれ、皆を傷つけたのは事実だ。それだけは許せない。いや、別にそんな話じゃないな……他のことは気にならないが、それだけは気になる、気にくわない、気に入らない。


「ちなみに、感謝したのは何で?」
「……元凶は貴方ですが、真也と向き合うキッカケを作ったのは貴方ですからね」
「なるほど」

「沙弥!!」


 げ……巻いたはずなのに。
 真也は私を抱き上げて、威嚇してるように冷泉恭真を睨む。先生はやれやれと肩をすくめる動作をして、真也に手を伸ばす。

 あ、この人……バイ。
 真也は……。


「だ、ダメ!」
「っ!? さ、さささささ、さや!?」


 思わず真也の腕を引いて抱きしめてしまった。私の行動が読めてたのか、クツクツと笑う先生はそのまま、教室の入口まで歩き、笑みを浮かべる。


「大切にしなよ」
「……え」


 ガチャン、と鍵が閉まる音がした。爽やかにヒラヒラと笑みを浮かべながら手を振る先生は居なくなる。嫌な予感がした。

 窓……ここは三階! 後ろのドアは……閉まってる!!


「……沙弥ちゃん」
「し、しんや……」
「ん。好き、好き……」
「ちょ、まてぇえええええええ!!」


気に入らないアイツ


 やっぱりあの先生は苦手だ!!