高みの嘲笑
実はといいますと、私は妖術で私の兄の顔を変えたことが多々あります。兄は鏡で自分の姿を見たことがない、否、みれないので、確認出来ませんし気付きません。私は毎回、住む場所を帰るときに彼の顔をその地域の時代で一番好まれるだろう外見にしています。何故かって? 私が彼に出会った時、彼はその地域の時代でおそらく一番に美しかったのです。だからその武器を与えてやっただけですよ。
しかし、やりすぎは禁物ですね。
私は同性愛とやらは否定はしませんが肯定もしません。まぁ、あっても無くてもどっちでもいいです。だけど、それが面白そうなら話は別。面白くなくても話は別です。
「こんにちは、侵入者さん」
「……君は?」
君は、じゃねーですよ。
ふと、目に入ったのは目を輝かせて女子生徒(何時も人選ミスなのか相手にしてくれない堅物さんだったりナンパの仕方がド下手なのか……)を追いかけ回す兄を視界にいれた黒髪の男。何と言うか……。
「貴方は、アレですね。ゲーム機みたいです」
「……ハハ。初対面なのに酷いこと言うね」
「いやいや。誉め言葉かもしれませんよ」
「それ、どっちなの?」
「私の主観が正しいと仮定して、人間の言葉を借りてそれが正しいとするならば……。
気味が悪いですね。故に興味深い」
何百、千年生きてきただろうか。
彼みたいな人間はたしかに見たことがない……とも言い難い。正確には、似たタイプを見たことがあるのかもしれない。一番身近な近いタイプの人間で言うならば、大梨言美のタイプか。
絶対的に、人間としての感情が欠けてしまったり、ずれてしまったりしまった感じの……瞳の奥の奥、機械的な冷たい本性が見え隠れしている。
「まぁ、君の白い髪は好きだな。とても綺麗だ」
「くっ、ククク……フフ。フフフフフフ……」
キレイ? 何だソレは。
何を見ているのか、検討つかない。何を考えているのか、想像できない。
それでこそ生! 私の生きる理由! ああ、この瞬間が堪らない。本当に堪らない堪らない堪らない!
この男の本性を面前で晒したい! 男の絶望を見たい! あの完璧に作られたような笑みを浮かべる男に、全てを教えたい! この世はあまりにも単純で複雑で楽しくて愉快で狂ってて歪んでて矛盾だらけの真実がたくさんあることを身体に教えてやりたい!
「貴方は、綺麗なモノが好きなんですか?」
「好きだけど、どうして?」
「それは、汚いものを沢山見た反動でしょうか? それとも単に綺麗コレクターなんでしょうか?
確かに綺麗なモノは綺麗ですね。しかし、その綺麗ということを保つために人間はいろいろします。どんなにブスと呼ばれる人間だって金さえあれば世界一の美貌を手に入れることだって可能になりました。それを社会的には非難する方が多いです。それも汚らわしいものを見るように、ね。
そこで質問です。貴方は全ての綺麗を愛せますか? それとも……天然物だけですか?」
ペラペラと饒舌に話すのはもはやアイツ……私に化け方を教えたヤツの癖が感染してしまったとしか思えない。早口で話した質問を目の前の男は静かに聞き、少し、考える素振りをした。それがあまりにも滑らかで優雅で、舞子や能でも見ているのではないかと錯覚してしまう。そして、男は優しく微笑んだ。
「うん。犬神の君が化けて人間になった白い髪もそれに入りそうだから……全部好きかな」
久しぶりに、ゾクリと寒気がした。私が犬神だと気がつくのは、それでこそ妖怪か、その妖怪が誰かに言うしかない。私の正体を知る妖怪は数少ない。つまり……。
この男、私を何時知った?
「じゃあね。中原歩実さん」
私の横を通り過ぎて、今郷高校の門を潜り抜ける男……。名前も名乗った覚えはない。ああ、何て不気味、そして素晴らしい人間なんだろうか。興味深い。興味深いですよ。
「……何をやらかしてくれるのでしょうか。フフッ」
今は様子見をしよう。
高みの見物だ。
あの男が何のために、私の縄張りのお気に入りがたくさんいるこの高校に足を踏み入れたかは分からない。だけど、荒らされるのも一興ではないか。
「楽しませて下さいね……。
絶対者、冷泉恭真(れいぜいきょうま)さん」
高みの嘲笑
もう、彼の背は見えなくなっていた