男女逆転カップルご案内






遠野刹那は、皇琥珀と共に、とある喫茶店へと訪れていた。
四人掛けのテーブル。目の前には、田村沙弥と平城真也。
いつぞやのケーキ屋騒ぎのように、全く偶然、たまたま出会った(以前は平城真也ではなく、茶藤陸だったが)。
それなりにほのぼのとデートしているらしかった二人を刹那が同席へと引き込み、わいわいと楽しんでいたのだった。

途中、刹那が「なー沙弥嬢、せっかくだから、真也にあーんでもしてやったらどうだ?」などど揶揄したのだが、
それを真に受けた沙弥が「なるほど、確かにデートといったら定番…」と平城の元へスプーンを運んだ。
慌てたのは平城である。

(まさか沙弥ちゃんにあーんしてもらえるなんて…!)

嬉しい、もちろん嬉しい。この上なく嬉しい。飛び上がるほどに嬉しい。
だが。どうにも恥ずかしい。

「さ、沙弥ちゃん…!」
「はい、あーん」
「…うう」

嬉し恥ずかしいとはこのことか。
ほんのりと顔を赤く染めた平城が、沙弥のスプーンからぱくりとパフェを食べる。
その様子は、どう見たって可愛らしい、付き合いたてのカップル。
カップル…なのだが、


「…なぁ、琥珀」
「なに?刹那」
「……男女逆転してるようにしか見えねぇのは、俺だけ?」
「……」


彼女のスプーンからパフェを食べる彼氏…ではなく、彼氏のスプーンからパフェを食べる彼女、にしか見えない。
しかも、沙弥が平城に「…可愛い」などと呟いている。


「……」
「……」
「…ま、いっか。沙弥嬢も真也もかわいーし!」


にぱーと笑った刹那が、そう納得する。
それでいいのか…と遠い目をしかけた琥珀だったが、すぐに現実へと引き戻された。


「…刹那?」
「はい、琥珀。あーん♪」
「はい!?…んぐっ!」


思いついた!とばかりにいい笑顔をした刹那が、自分のパフェから一掬いスプーンに取り、それを琥珀の口元へと持っていく。
驚いた琥珀が口を開けると同時に、それを口の中に突っ込んだ。


「美味いか?」
「…うう、刹那ぁ…何するの!」
「いやぁ、俺達もカップルの真似事でもしてみようかと思いまして」


けらけらと笑う刹那に、琥珀は顔を真っ赤にする。
目の前でも似たような光景が繰り広げられていた。

暗雲立ち込む前の、ひと時の平穏な話。