誰が味方で誰が敵なのか






「私は思ったのです。冷泉恭真を殺したら偶然に殺されるのではないかと。でも、このまま放置してても迎える結末は同じでしょう。ならば、どうしたら偶然を味方につけられるか……簡単です。冷泉恭真を喜ばせたらいいのですよ。ならば、答えは簡単です。彼の願い通りの結末を作り出せば良い」


 でも、彼の願いとはなんでしょうか。そう俺が訊ねたら、歩実はこう答えました。


「何かを壊せばいいのです。とても綺麗な友情や愛情、もうなんでもいい。それを彼の目の前で完膚なきほどにぶっ壊せばいい」


 でも、それだったら悲しむ人がいるのでは?
 歩実はやれやれと肩をすくめる。本当に愚問だというように、人差し指を立てて口を開いた。


「たった二人の犠牲で私が死なない。それは多くの人間を救うことくらい貴方だって知っているでしょう」


 やっぱり、歩実はそうするつもりなんですね。
 昔、彼女が失った一人の女性のように、何かを犠牲にして世界は成り立つ。
 いじめも、部落差別も、ユダヤ人の迫害も。全て誰かが犠牲になって生き抜いてこれた。人間はやり直せた。
 しかし、それじゃあまりに非道すぎる。

「誰にしましょうか……田村沙弥と平城真也が標的として一番なのでしょうが……シバがウルサイです。田村沙弥を絡ませてはならない。ならば……花鳥千歳を殺しましょう」


 そろそろ頃合いですしね。そう歩実は口にして笑った。確か、あの一家は結婚して子を生めば、母は殺される悪行非道な一家でした。しかし、何でそんな。


「あとイタリアからあの二人を呼びましょう。花鳥千歳だけでなく、茶藤陸も壊れてくれるかもしれません。舞台とキャストを整えるだけでも、最悪でも私は偶然から解放されるでしょうしね」


 ああ、どうしましょうか。
 冷泉恭真は平城夜美を壊そうとしている。歩実は、花鳥千歳と茶藤陸を壊そうとしている。
 何で、こんなことになるんですか? 皆、幸せじゃなきゃいけないんですか?

 俺にはわかりません。
 俺は、どうしたらいいのでしょう。