通りがかりの悪夢








利用できるものは全て利用して。
けれど、利用しているというような意識はない。





「ねぇ、夜美ちゃん」
「君という存在を本当に理解している人間は、僕以外にいるのかな」


自分の後ろを歩く夜美に、唐突にそう問いかける。
訝しそうに自分を見上げた少女を見つめ返し、くすりと笑みを零した。


「君は化け物だよね」
「…知ってる、」
「つまり、他人とは違う存在なんだよ。君のその感覚を知ってる人間は、この世に誰一人としていない。世界に人間は溢れるほどにいるというのに、君は、この世界で一人ぼっち……寂しい、ね?」


心を揺さぶるような、棘に塗れた言葉。
精神を溶かすような、甘ったるい声音。
人形めいた容姿に浮かべた、氷の微笑。


誰も彼女を、理解らない。
人間は、自分と違うものを理解できない。

歩みを止めた夜美を振り返り、恭真がふ、と、温度のない笑みを浮かべた。


「風来灯真、っていったっけ?君は彼に随分好意を抱いてる…いや、執着している、とでも言った方がいいのかな?
だけどさ、彼は君を理解し切れないよ。彼と君は対極で、正反対で、どうしたって相容れない。それは事実なんだ。
…ああ、離れろ、とか、釣り合わない、とか、そういうことを言ってるんじゃないんだよ?
そのことに僕が介入するつもりはない…だって、関係ないからね。君を連れてきたのは、君を死なせてあげるためだけ。他のことは好きにすればいい。
つまり何が言いたいかって……」




くすり、と、笑った。
夜美を見つめて、口角をあげる。
ゆらりと揺らめく夜美の綺麗な黒い瞳を覗き込み、硝子玉に映りこんだ自分の姿を愉快そうに見つめる。
出すべき言葉が見つからず、何という言葉を零せばよいのか躊躇う夜美が、恭真を見つめ返した。

風来さんを侮辱するな。
普段ならそう言うだろうに、今ばかりは言葉が出ない。

否定しきれないところがあったのかもしれない。
彼を尊敬し、彼の優しさを好いて、彼を第一だと思っている。それは絶対だ。
けれど。

自分の感覚は、きっと、彼にはわからない。





「僕らは"同じ"だ。…俺は、お前を理解出来るんだよ」