臈たけなる悪の華






夢を見た。
懐かしい夢だった。




それは、俺が二十五、六の時の夢で。
最愛の恋人である凛架が抗争で瀕死になり、その命の灯火を、この手で奪ったそのときの夢だった。
思えばあの時、初めて僕は己の心の臓に向けて引き金を引いたのだろう。

派手に吹雪く中、凛架を手にかけた拳銃を持って、ただ、走って、走って。
自分を探しにきたシドに縋り付いて、ただ、泣いた。
声が枯れるほどに、涙が枯れるほどに、生まれて初めて泣き叫んだ。
凛架が死んだ。凛架を失った。
耐え切れず、手にした拳銃を、心臓に向けて撃ち放った。
…シドは、静かに俺を抱きしめていた。


けれど、死ねなかった。
弾は中で詰まった。
何度撃っても何度試しても、死ねない死ねない死ねない!


「……あは、」

多分、そこで、壊れた。


「あは…あはは…はははははっ!!」










そこで、目が覚めた。

辺りは暗くしんと静まり返っていて、ここが自分の住まうホテルだと遅れて認識する。
荒く呼吸をする身体を落ち着けて、隣で眠る少女の手を無意識に掴んだ。
彼女の名は斎宮梨花といった。
身じろぐ彼女を起こしてはいけないと、ふらつく身体を起こしてベッドから這い出て、熱いシャワーを浴びる。


「……、りんか…」


どちらの名前を呼んだのか、自分でもわからなかった。
凛架なのか、それとも、梨花か。




ぐらつく思考の端に、ある少女が浮かんだ。
それは、まさに少女と呼ぶに相応しい容貌をしていた。
成人しているというのに、小学生のような容姿に、小さな背。
ぱっちりとした瞳に、愛らしい童顔。

平城夜美。

彼女は死ねない化け物だった。
どこまでも強者たりえる戦士だった。

絶対者たる僕なら自分を殺せるのかと問うた彼女に興味が湧いた。
僕らはどこまでも似通っていて、どこまでも矛盾していて、どこまでも相容れない存在だったけれども、僕等はどちらもひとりぼっち。

死にたいならばおいでと惑わした。
そして、彼女は僕の手を取った。




「…ふふ、愉しみだなぁ」

今度は、彼らはどう動くのだろう。
同情も理解も必要ない、ただ僕を愉しませてくれたらそれでいい。

隣の部屋で気持ちよさそうに眠る平城夜美を見て、濡れて水の滴る髪を拭こうともせず、口元を三日月のように歪める。

胸元のリングが月光に反射して、きらりと光った。