破壊本能継続中





「殺せないならいいや。それに、風来さんに“殺し合いはダメ”って言われてるし」


 興味を失ったように、平城夜美はニコニコと笑顔を造ってる冷泉恭真から視線を外し立ち上がった。
 彼女にとって大切なのは「いかに人間に近づくことが出来るか」だった。人間を好きだったか、または憧れていたか分からない。とにかく化物ということが、この上もなく寂しく辛いことだけは痛い程理解している。だからこそ、誰もを魅力するだろう極上の容姿を持つ冷泉恭真から離れようとした。


「夜美ちゃん、ちょっと待って」
「……何?」


 先ほどまで楽しそうに会話していたというのに、夜美の口調はトゲが含んでいるようだ。それでも構わないのか、同じく相手の反応さえ興味がないのか、冷泉恭真は完璧な微笑を浮かべ続ける。


「矛盾って知ってる?」
「……はぁ?」
「どんなものでも突き通すことの出来る矛でどんなものでも突き通すことが出来ない盾を突き通そうとします。夜美ちゃんはどうなると思う?」
「……えと、ん……?」
「このつじつまの合わないことを矛盾って言うんだ。まさに、今の僕達のようだね」


 矛盾した存在。
 つじつまの合わない、非常に気持ち悪い存在。
 しかし、両者は何処か似通っていた。何処までも、理さえも無視した存在なのに、たった一つの哀れな共通点。

 両者共、精神は既に完膚なきほどに壊れてしまっていること。
 ならば、もっともっと壊れてしまおうではないか。さすれば、何時か精神が身体まで異常をきたし、滅びてくれるかもしれない。
 これは妄言なのか戯言なのかは両者にも、神にも予想できない。だけど、二人は進むしかない。後戻りも出来ない。

 彼らが歩んだ道は、既に目にも当てられない状態なのだから。

 彼は、救世主の様に夜美に手を差しのべる。夜美は、呆然と冷泉恭真の手を見つめた。


「死にたいなら、おいで」
「…………」
「一緒に壊れよう。大丈夫だよ」


 何が大丈夫なのか、分からない。だが夜美は、とにかく自分を壊したくて、死にたくて、その甘い誘いに乗ったとばかりに、冷泉恭真の大きな手の平に、自らの小さな手の平を重ねた。