黎明世界に問う







「死ねないよ、きっと。僕等はどちらも」



目の前の化け物に、そう笑いかける。
嗚呼、勘違いしないで欲しいな。
この「化け物」はあくまで賞賛の意味が篭もった使い方であって、決して彼女、平城夜美を侮辱しているわけじゃない。


さてさて、先ほどの彼女の問いだけれども。
どれだけ頑張っても、君は死ねないと思うよ。
純粋な戦闘能力だけでいうなら、僕は君には決して叶わない。負けはしない自信があるけれど、彼女を殺すっていうのはちょっと無理かな。
だって、身体の構造が違う。

化け物の血を引く君と、身体は普通の僕。
どう頑張ってもその差は埋まりはしない。

嗚呼、僕も大概異常な存在だって?
それはそうだけれどもね、その異常さは君のそれとはちょっと違うよ。
確かに僕は強い。自分でも不思議に思うくらいにね。
シド曰く、僕は神様とやらに偏愛されて生まれてきたらしいよ。
美しい顔と綺麗な身体と優れた頭脳と戦闘能力。
おまけに、生まれた家が絶対者の家系で。

神に愛された僕と化け物の君。
決して死ぬことの出来ない、偶然とやらに絶対的に庇護されている僕と、何が起ころうとも、身体が吹き飛ぼうとも死ねない君。


嗚呼、残念。

君がどれほど僕を殺そうとしても僕は殺せない。
僕がどれほど君を殺そうとしても君に届かない。


嗚呼、愉快。

せっかく一人ぼっち同士の僕らだけど、僕らはふたりぼっちになれやしない。
どれほど殺し合っても、決着もつけられやしない。





田村沙弥を攫ってみた。
平城真也を壊そうとした。
彼ら二人を滅茶苦茶にしようとしてみた。

それは珍しく失敗に終わって。
その結末は、きっとあの白い狼少女…いや、白い悪魔か。
中原歩実を大いに楽しませたことだろう。


嗚呼、気に入らないな。


反省などしない。
改心などしない。
そうするには、心を入れ替えるには、自分の心はとうに壊れ果ててしまっていた。






「ふふ…何なら、僕と殺し合ってみようか、平城夜美ちゃん?」


冷泉恭真は笑った。