死にたがり化物の自問自答



 私が小学生の頃に爺ちゃんが呪いみたいに唱え続けたんだ。
 夜美は一族の中で一番化物の血を受け継いでいる。誇りを持て、と。
 最悪だった。だってそうでしょ? 私はライオンで、周りにはうじゃうじゃとシマウマ……もっと悪く言ったらアリがたくさん居るんだ。

 殴っても死ぬ、斬っても死ぬ、絞めても死ぬ。そんなひ弱な生き物が何故か世界を統一しているみたいなんだ。一番残酷なのは、ひ弱な皮を被った私にアリと同じ思想を植え付けられたことだろう。

 人間を傷つけるなとか。
 人間を殺すなだとか。
 人間と仲良くあるべきだとか。

 結果、簡単に人間を殺せる化物は人間と一緒に生きることになりました。アリと同じ巣で生きてる感じだよ。どう思う? 私は居心地悪いなぁ。

 それに気づいたのが、確か幼稚園くらいだったかも。勢いで高いところから落ちちゃったんだよ。でも私、怪我しなかったんだ。地面には私のらしい血が染み込んでたんだけど、傷が無かったの。化物だって罵られちゃった。

 それからこの世に絶望したなー…。簡単に殺せちゃうに殺しちゃいけない存在がいて、もう……いろいろ我慢が出来なくて、死のうとしたんだよ。
 自分が火だるまになった時もあったし、氷みたいになった時もあった。血まみれになったこともあるよ?

 なのにね、死ねないの。
 傷が、治ってるの。

 もう自分が何か解らなかった。自分は人間と違うならなんなんだって自問自答を繰り返した。だけど私、馬鹿だから考えるのも疲れて我慢出来なくて止めちゃって何回も何回も死のうとしたんだ。父さん達にも最初は止められたけど、私が化物だって割りきったみたいで怒るの止めちゃったな。

 あーあ、もうなんか面倒臭いなぁ……。

 だから、私はまだしたことない死に方を求めて海外に向かったんだ。もちろん海を泳いだよ。途中で疲れて溺死とかしちゃえば良かったんだけど、思ったより体力があって無事何処かの国にたどり着いたんだ。あの時も泣きそうになったなぁ。

 でも、そんな気持ちも無くなるんだと思ってた。だって、戦争ではたくさんの命がなくなるんでしょ? なら私だって死ねる。

 で、銃撃戦の中に入ったんだ。


 撃たれたは撃たれた。だけど、やっぱり傷が塞がった。
 そして、顔をあげたら目の前ではアリとアリが自分達で殺しあってるんだ。
あれ、おかしいな。私は人は殺しちゃだめって人間に教わったのに人間が殺しちゃってるぞ? そこで、考えることが嫌いな私は思ったんだ。

 自分で言ったことも守れない人間の約束事なんて、化物の私が守る必要ないんだってね。

 ……その後のことは、想像にお任せするよ。とにかく、私はそれからいろいろやらかしちゃったな。まぁ、それでも凄い人を見つけたからいいんだけど。ふふふ、誰かわかる? 風来さんだよ。あの人は凄いんだぁ。どんな些細なルールだって守ろうとかなり必死。私には到底出来ないよ。

 ああ、なんでこんな長ったらしい話をしたかと言うとね、アンタと私がちょっと似てると思ったから。アンタ、死にたいのに死ねないんでしょ? ふふー。私もだよ。

 寂しくない? 同族もいない、ルールもくそもない世界で一人ポツンと居るのって。あれ? これは私だけ? また私は一人ぼっちなのかな。まぁ、いいか。

 お兄さんも私と一緒の一人ぼっちなんだもん。全然寂しくないよ。

 お兄さん、もう一度聞くよ。


「私達が殺しあったら、お兄さんの『ゼッタイシャ』とかいうのがあったら、私は死ねるのかなぁ?」