――新宿某所。街中を歩いていた一人の少女が、一人の男に声を掛けられた。

「こんにちは」

「…………」

 声を掛けられて足を止めたのは、可愛らしい桃色のワンピースに身を包み、綺麗な長い黒髪の可愛らしい少女。それに対し男は、チャンスだとばかりに話を始めた。

「君、モデルとかに興味ない?これ、俺の名刺ね」

「……?」

 少女に差し出された名刺には、男が某月刊雑誌の編集者だということが書かれていた。その月刊雑誌は中学生や高校生を対象としたファッション誌で、少女もよく読んでいる有名な雑誌だった。

「この雑誌、君くらいの子を対象としたファッション誌なんだけど……知ってるかな?」

「…………」

 少女は何も言わず、ただ無言のまま静かに頷いた。それを見た男はまた話し始めた。

「それでね、この雑誌のモデルとか興味ないかな?君は可愛いし、身長もあってスタイルもいい。もし君にその気があるなら、一度オーディションとか受けてみない?」

「……あの、」

 そこまで話が進んだところで、少女は初めて声を出した。

「ん?何か聞きたいことある?」

「いえ、そうじゃなくて……私には、この雑誌のモデルなんて出来ません」

「……どうしてかな?」

 男は少女の声が普通の女の子より低めなことに少なからず疑問を持ったが、そういう子もいるだろうとあまり気にせず聞いてみた。そして、その答えに男は心底驚かされるのである。












 ――だって、俺、男だから。






20101021~






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