※静雄×♀臨(臨美)




「シズちゃん、お買い物に行こう!」

 朝、目を覚ますと勝手に侵入したらしい臨美が腹に跨がっていた。どうりで重いわけだ。

「……重い」

「女の子にそういうこと言っちゃ駄目だよ。はい、起きて起きて」

 言いながら人の腕をぐいぐい引っ張り、起こされたと思ったら着替えを手渡されたのでとりあえず着替えた。


 朝飯を食べる暇もなく連れ出された俺は、強制的に臨美の買い物に付き合うことになった。

「シズちゃん、今日は何の日か知ってる?」

「知らねぇ」

「あのね、今日はメンズバレンタインデーなんだよ」

「……は?」

 バレンタインデーは知ってる。だが、メンズバレンタインデーってのは知らない。一体どんな日なんだと聞こうと思って隣を見たが、そこに臨美はいなかった。

「臨美?」

「こっちだよ!」

 ぶんぶんと大きく手を振りながら俺を呼ぶ臨美が立っているのは、所謂ランジェリーショップの前。

「……下着くらい一人で買いに来いよ」

「今日は特別なの!いいから早く入ろ?」

「いや、俺はあっちで朝飯食ってるから買ったら来い」

「シズちゃんが一緒に来てくれないと意味無いの!」

「一緒に入ってどうすんだよ……」

「下着を選んで、私にプレゼントして?」

「何でだ」

「今日はメンズバレンタインデーだから!」

「……その、メンズバレンタインデーって何だ?」

「んと、メンズバレンタインデーってのは――」

 臨美曰く、メンズバレンタインデーとは男が女に下着をプレゼントして、その相手に愛を告白する日らしい。だから臨美は今日、俺を連れて此処に来たのだと言う。

「ね?だから一緒に入ろ?」

「……嫌だって言っても、絶対どうにかして買わせる気だろ」

「勿論」

「はぁ……」

 この女の諦めの悪さを、俺はよく知っている。早く朝飯を食べたいということもあり、俺は仕方なく臨美と共にランジェリーショップへ入った。




「シズちゃんは何色が好き?」

「……派手すぎなきゃ何色でもいい」

「んー。私はいつも黒か赤系ばっかなんだけど、たまには可愛い系のピンクとかも良いかなぁ?」

 確かに黒とか赤系が多い気がする。ピンクは……、って何真面目に考えてんだ俺。

「あ、見て見て。これ可愛くない?」

「…………」

 臨美が手にしているのは、薄いピンク色のシンプルな下着。……何度見ても思うのだが、どうして女の下着はこうも布が少ないのか。何だか見ているだけで恥ずかしい気がする。

「ね、シズちゃんも可愛いと思うでしょ?」

「…………まぁ、可愛いんだろうけどよ……」

「じゃあ、これ買って?」

「は?」

「私にプレゼントして?」

 可愛らしく首を傾げて言われても困る。まぁ、ここで買わなければ俺は暫くこの買い物に付き合わなければならない訳で。それは勘弁して欲しいと思い諦めて財布を取り出せば、それを見た臨美は嬉しそうに笑った。

「シズちゃん、ラブ!」




 買った下着の入った紙袋を大切そうに抱えながら隣を歩く臨美は終始笑顔で、こんなに彼女の機嫌がいいのは久しぶりだと思う。

「……そんなに嬉しいか?」

「うん!」

 無邪気に笑う臨美はとても可愛らしい。前に一度だけ服をプレゼントしたときも、確かとても喜んでくれたのを覚えている。

「これ、絶対着けるからね!」

「ん」

「……破っちゃヤだよ?」

「破らねぇよ!」

 そんなことを喋りながら朝飯を調達するためにコンビニへ向かう途中、俺は先ほどの臨美の話を思い出した。

「……臨美」

「なぁに?」




 ――メンズバレンタインデーってのは男の人が女の人に下着をプレゼントして、その相手に愛を告白する日なんだよ!




「……一回しか言わねぇからな」

「うん?」

 立ち止まった俺に伴って立ち止まった臨美は、何だか不思議そうに此方を見上げていた。

「臨美」

「何?」

「……愛してる」

 俺が言った瞬間、臨美は大きな瞳を更に見開き頬を赤く染めた。そして、泣きそうな顔で微笑みながら抱き着いてきた。

「シズちゃん、ラブ!愛してる!!」

 抱き締め返すために回した腕に力を込めて臨美を抱えた俺は、人混みを抜けて足早に人通りの少ない路地裏へ入った。

「やだなぁ、シズちゃん。こんな人通りの無いとこに連れ込んで何するの?」

「何もしねぇよ」

 壁に寄り掛かった臨美に近づいて頬に手を添えると、俺の手に擦り寄りながら目を細めて見上げてきた。

「……ほんとに何もしないの?」

「…………」

 少しずつ顔を近づけていくと、臨美は細めていた目を完全に閉じた。薄く色づいた唇に口付けたいのを堪えて、何となくじっと見つめていると焦れたらしい臨美の腕が伸びてきた。

「んっ、」

 首に回った腕に引き寄せられて唇を重ねた。暫く互いに啄むようなキスを続け、離れ際にぺろりと唇を舐められた。

「意地悪〜」

「あ?」

「舌、入れてくると思ったのにっ」

 拗ねたような顔に思わず笑みが漏れた。

「帰ったらしてやる。その前に腹減ったから飯だ」

「私よりご飯なのー?」

「今はな」

 後ろからうだうだ言いながら付いてくる臨美に笑みを溢しながら、帰ったらたっぷり愛してやろうと考えつつコンビニへの道を再び歩き始めた。






20100915~


9/14はメンズバレンタインデーの日なんだそうで、記念に書いてたんですが間に合いませんでしたorz






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -