※切ない




 朝、重い瞼を押し上げて目を開いた。目の前には、笑顔。

「おはよう、シズちゃん」

 幼さの残るそれは、いつもの見慣れた顔だった。目を開いた俺を確認すると、立ち上がりその場を立ち去った。それからすぐに美味しそうな匂いがして、俺もその後を追って立ち上がった。

「今日はね、シズちゃんの大好きなプリンもあるよ」

 俺は顔を洗ってからいつもの席に着いて、朝食の出来上がりを待っていた。テーブルの上に料理の乗った皿を並べながら、自慢気に指を差した先には生クリームが添えられたプリン。俺の好物。

「さて、食べようか。いただきます」

 いただきます、と言ってからトーストを手に取った。綺麗に塗られたマーガリンは甘く美味しい。横に置かれた牛乳、サラダ、そしてプリン。全てを食べ終えて、席を離れた。

 俺が準備をしている間に片付けを終えたらしく、出掛ける為に玄関へ向かう途中で呼び止められた。

「あ、ちょっと待って!」

 座っていたソファーから立ち上がり部屋に入って行ったと思えば、何やら紙袋を抱えて戻って来た。その紙袋から出てきたのは長めのマフラーで、ふわりと首に巻かれた。

「はい、プレゼント」

 手袋もあるんだけど、と言いながら手渡されたマフラーと同じ色の手袋。受け取り眺めていると、頬を両手で包まれて唇に感じる温もり。

「お誕生日おめでとう、シズちゃん」

 優しい笑顔。心から祝われているのだと、そう思えた。幸せだった。そっと抱き締めて、額にキスを返して。

「いってらっしゃい!ケーキ用意しておくから、帰って来たら一緒に食べようね」

 玄関まで見送られて、手を振りながら外へ出た。












 ――そこで、目が覚めた。
 帰宅して、ソファーに座り込んだまま寝ていたらしい。ふと手の甲が濡れていることに気づいて、涙に気づいた。

「……臨也、」

 言って、更に泣きそうになる。でも、アイツは言っていた。泣くなと、笑っていてくれと。だから、もう泣かないと決めたのに。


 最愛の人に誕生日を祝われる幸せを、俺は忘れない。






20120128~

静雄誕生日記念






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