※来神時代
※付き合ってる静臨




 来神高校の売店には、一日限定30個しか売られていない人気のメロンパンがある。毎日昼休みになると授業を終えた生徒たちは、限定30個のメロンパンを手に入れるために売店へ駆け込んでくる。
 そのメロンパンとは通称・ジャンボメロンパンといい、普通のメロンパンよりも一回り大きく、中に甘さ控えめのメロンクリームが入っているのが特徴だ。価格は1個150円と普通のメロンパンよりは高めだが、それでも甘いもの好きな女子生徒や量を多く食べたい男子生徒に特に人気があった。しかし一日に30個しか売られておらず、予約も受け付けていないために高校生活三年間で一度も食べれなかったという人もいるという。
 そんな人気のあるメロンパンを食べたいのは、甘いものに目が無い彼も例外では無かった。




 来神高校には、今日も騒がしく校内を走り回る二人の男子生徒がいた。

「シズちゃーん、そんなんじゃ俺に追いつけないよー?ってか、何でまた俺は追いかけられなきゃなんないわけー?」

「手前が逃げずに一発殴らせてりゃあ、俺はこんな走らなくて良いんだよ!だから止まりやがれ、クソノミ蟲!!」

「俺はノミ蟲なんかじゃないから止まりませーん!」

 呑気に喋りながら走っている二人、先を走っているのは折原臨也といい、彼を追いかけているのは平和島静雄という。彼らは入学したその日から毎日喧嘩を繰り広げていた。当初は殺し合いに近い喧嘩を繰り広げていた彼らだったが、そんな二人の喧嘩が痴話喧嘩になったのはいつからだったか……。

「別にちょっとくらい食べたっていいじゃん!チョコレートなんてどれも一緒でしょ!?」

「違う!あれは期間限定で、しかも限られた店でしか売ってねぇ貴重なチョコレートなんだよ!それを勝手に3つも食いやがって……、絶対ぇ許さねぇからな!!」

「そんな貴重なチョコレートだなんて知らなかったんだもん、仕方ないじゃん!そんなにチョコレートが大事なら、シズちゃんなんて一生チョコレートだけ食べてればいいよ!バカバカバーカ!!」

 今日の喧嘩の発端は、静雄の机の上に置いてあったチョコレートを臨也が勝手に食べたことから始まった。そのチョコレートは昨日、静雄がわざわざ並んでまで買った期間限定の貴重なチョコレートで、そんなことを知らない臨也は10個入りのチョコレートの内3つも食べてしまった。それに怒った静雄は臨也に吐き出せと無理な事を言い出し、それから痴話喧嘩を始めた二人は今の追いかけっこという名の喧嘩に至った。

「待ちやがれ!臨也!!」

「誰が待つもんか!シズちゃんのバーカ!!」

 校内をぐるぐる走り回る彼らを止めようとする者は誰一人としていなかった。巻き込まれると面倒だということを、周りの人間たちはよく理解しているのだ。
 そんな二人が走り回っている最中、校内放送が流れた。

 ――売店より、お知らせします。本日のジャンボメロンパンは売り切れました。繰り返します、本日のジャンボメロンパンは売り切れました。また、明日の予約は受け付けておりません。

 そんな放送を聞いて、今まで校内を走り回っていた静雄と臨也は足を止めた。

「あ……」

「くそっ、また忘れてた……」

 走るのを止めた静雄は、その場にしゃがみ込んで頭を抱えた。それを見た臨也は静雄に近寄ると、腰を屈めて顔を覗き込むようにして声を掛けた。

「ほら、また明日買えばいいじゃん、ね?」

「それ、昨日も言ってたじゃねぇか……」

「そうだけどさー……」

 そう、彼も例外では無かったのだ。甘いものが好きな静雄は入学してすぐにジャンボメロンパンの話を聞き、それから毎日買う機会を窺っていた。しかし、そんな機会は今まで一度も無かった。それもその筈、静雄は入学してからずっと昼休みは臨也を追いかけていたからだ。そして今日もそれが原因で、静雄はまたジャンボメロンパンを買いに行くことは出来なかった。

「シズちゃん、そんなにジャンボメロンパン食べたいの?」

「食べたい」

「どうしても?」

「……みんな美味いって言うし、メロンパン好きだし、……一回くらい、食べてみてぇんだよ」

 彼らの喧嘩が痴話喧嘩に変わってから、臨也は静雄がジャンボメロンパンを食べたがっていることを知った。それからは出来るだけ昼休み前には喧嘩をしないよう臨也なりに気をつけているのだが、そう上手くはいかず未だに静雄は昼休みに売店へ行けたことすら無い。

「……ねぇ、シズちゃん」

「なんだよ……」

「……ジャンボメロンパン、食べれたら嬉しい?」

「そりゃあ、嬉しいに決まってんだろ……」

「だよねー……」

 廊下の真ん中でしゃがみ込んだまま動かない静雄を見て、臨也は苦笑したまま隣に立ち尽くしていた。




 翌日、昼休みを目前にして彼らはまた校内を走り回っていた。

「いーざーやー!!」

「もう!毎日毎日、何で追いかけてくるのさー!!」

「手前が悪ぃんだろーが!!」

「今日はちょっと机に落書きしただけじゃんかー!!」

 相変わらず彼らを止めようとする者はおらず、未だ授業中にも関わらず二人は校内を走り続けており、今日もこのまま痴話喧嘩が続くのだと誰もが思っていた。

「悪口とかじゃないんだから、机に落書きくらいしたっていいじゃん!」

「あ、あれは、机に書くことじゃねぇだろ!?」

「照れ隠しに追いかける止めてくれなーい?」

「うるせぇ!!」

 今日の喧嘩の発端は、休み時間に臨也が静雄の机に落書きをしたことから始まった。静雄が少し席を外している間に、臨也は油性ペンで机にでかでかと“シズちゃん、ラブ!”と書き上げた。戻ってきた静雄がそれを見て顔を真っ赤にしたのを、クラスメイトたちは見逃さなかった。勿論そんな静雄の姿を臨也も見逃している訳は無く、それについて臨也がからかったことによって追いかけっこに発展した。

「シズちゃん、ラブ!愛してる!」

「ばっ、叫ぶんじゃねぇ!」

 二人がそんなやりとりをしていると、校内に四時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。それを聞いた臨也は、急にスピードを上げて走り出した。

「シズちゃん、ちょっと待ってて!!」

「は!?」

 臨也は静雄に一言だけ告げると、階段を飛び降りて下の階へ走って行った。一人取り残された静雄は、ただただ廊下に立ち尽くしていた。


 臨也が一人走り去ってから、静雄はいつまでも廊下に立ち尽くしている訳にもいかず一度教室に戻ることにした。

「あれ、臨也はどうしたの?」

「何かよく分かんねぇけど、走ってどっか行った」

 教室にいた岸谷新羅は静雄一人が戻って来たことに疑問を持ち問い掛けたが、静雄もよく分かっていないので適当な返事をした。それから暫く二人で話をしていたのだが、途中から新羅がセルティという同居人の話を始めてしまい聞き飽きていた静雄は弁当を食べることにした。静雄が鞄から弁当を取り出して蓋を開けようとしたとき、教室に臨也が現れた。

「シズちゃん、見て見て!俺頑張ったよ!!」

「あ?」

 静雄に駆け寄る臨也の手には、一つの紙袋が握られていた。

「はい、プレゼント!」

「……俺に?」

「他に誰がいるのさ。ほら、とりあえず開けてみてよ!」

「お、おう」

 臨也から渡された紙袋は、この来神高校の売店で使われている紙袋で静雄にも見覚えがあった。どうやら臨也はこの紙袋の中身を買うために走って行ったらしい。

「変なもん入ってねぇよな……?」

「当たり前でしょ!」

「臨也からのプレゼントなんて、何か怖いもんねー」

「新羅うるさい」

 臨也が横目で新羅を睨み付けている間に、静雄は紙袋をそっと開けて中を覗いてみた。それと同時に、また校内放送が流れた。

 ――売店より、お知らせします。本日のジャンボメロンパンは売り切れました。繰り返します、本日のジャンボメロンパンは売り切れました。また、明日の予約は受け付けておりません。

 それを聞いた新羅は、静雄の方を見て苦笑した。

「静雄、また買いそびれたね」

「…………」

「え、どうしたの?やっぱり何か変なものでも入って――」

 新羅はまた静雄が買いそびれて落ち込むだろうと思っていたのだが、静雄は臨也から渡された紙袋の中を見つめたまま固まっていた。それに気づいた新羅も紙袋の中を覗いて、思わず言葉が途切れた。

「……臨也」

「なぁに、シズちゃん?」

「……ありがと、な」

「どういたしまして!」

 紙袋の中に入っていたのは、つい先ほど校内放送で完売を告げていたジャンボメロンパンだった。それは、静雄がこの三年間ずっと食べたくて仕方がなかった物で、まさか臨也が買ってきてくれるとは思っていなかった静雄は驚いた。そして、今は驚きよりも嬉しさが勝っており、緩む頬を隠しきれなかった。

「シズちゃんがあまりにも食べたい食べたいって言うからさ、この俺が仕方なく買いに行ってあげたんだよ?どうせシズちゃんは今日も忘れて俺を追いかけてたんだろうからねー」

「たまには臨也も良いことするんだね」

「一言余計なんだけど」

 臨也に礼を言った静雄は、紙袋からジャンボメロンパンを取り出してじーっと見つめた。そして、何を思ったのか新羅と会話していた臨也に差し出した。

「え、何?まさか要らないとか言わないよね……?」

「違ぇよ。……これは、手前がわざわざ走ってまで買ってきたもんだし、一口くらい食わせてやろうと思っただけだ」

「シズちゃん……!!」

 その後、二人に付き合いきれなくなった新羅は自分の席に戻り、臨也は静雄から一口だけジャンボメロンパンを食べさせてもらい、静雄は残りのジャンボメロンパンを一口一口それは幸せそうに食べていたという。そんな静雄を見つめていた臨也も幸せそうだったというのは、クラスメイトたちだけが知っていた。






20100128~

Happy Birthday,Shizuo!

誕生日関係無いですが、静雄の誕生日記念です。シズちゃん、お誕生日おめでとおおおおお!!






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