※臨也×♀静




 今日は帰りが遅いと言ったら、臨也が迎えに来てくれると言った。だから、予め仕事が終わる時間を教えていた私は、仕事終わりに事務所の前で臨也を待っていた。

 ――でも、教えた時間から一時間以上経っても臨也は現れなかった。


 ……また、急な仕事が入ったのだろうか。前にも迎えに来ると言って遅れたときは、急な仕事が入ったために遅れると連絡が来ていた。しかし、今回は未だにメールの一つも来ていない。
 臨也が忙しいのはよく分かっているし、こういうことも今までに全く無かった訳ではない。それでも、一度だけ何の連絡も無しに待ち合わせに遅れて来た臨也に私がキレてからは、少しでも遅れるときは必ずメールや電話で連絡をしてくれていた。

 ……それが、今日は既に二時間が経とうとしている今でも一切連絡が無い。

「……、……帰ろう」

 実際、私みたいな女が一人で夜道を歩いたって危険なんてほとんど無いのだ。臨也は心配してくれるけど、池袋最強という名でよく知られている私を襲おうなんて馬鹿はあまり居ないと思うし、喧嘩を売られるなんてのは日常茶飯事だ。

 そんなことを考えながら歩いていると、頬に水滴が当たった。

「あ、……」

 上を向くと、ポツポツと降りだした雨が顔に当たった。傘を持っていた者は差して歩きだし、持っていなかった者は足早に歩いて雨宿りをしたりしていた。
 傘を持っていなかった私は、コンビニで傘を買ったり雨宿りをする気にはなれず家まで走ることにした。着ているバーテン服を濡らし、視界を邪魔する雨がいつもより煩わしく思えた。




 走って帰路に着いたまでは良かったのだが、途中から激しく降りだした雨に濡れた私は身体の芯まで冷えてしまった。
 住んでいるアパートの前まで来て、自分が借りている部屋の扉の前に誰かが居ることに気づいた。――あれは多分、私が待ち続けていた人。

「シズちゃん!!」

 未だに雨に当たっている私を見つけた臨也は、扉の前から此方へ駆け寄ってきた。そして、自身も傘を持っていなかったらしい臨也は、着ていた黒いコートを脱いで私に着せた。フードまで被らされて、何となく動けずにいた私に臨也は言った。

「シズちゃん、ごめん!思ったより仕事が長引いちゃって、全てが片づいた頃には約束してた時間はとっくに過ぎてて間に合わなかったんだ。連絡する余裕もなくて、迎えには行ったんだけどもうシズちゃんは居なかったから先回りして待ってた。……ごめん、本当にごめん」

「……別に、……気にしてない」

 嘘。本当は寂しかったし、悲しかった。……あと、すごく心配した。
 遅れるときは必ず何かしらの連絡をしてくれていた臨也から、今日は一つも連絡が無かったのだ。急な仕事が入って連絡する暇が無かっただけならいいが、もしかしたら何か大きな事件に巻き込まれているのかも知れない。そう考えただけで、私は臨也のことが心配で仕方がなかった。

「シズちゃん、風邪引いちゃうよ。部屋に行こう?ね?」

「…………」

 私を気遣って、部屋に行こうと言って腕を引く臨也。そんな臨也の手を、私は思わず振り払ってしまった。そして、後悔した。

「……ごめん、怒ってるよね」

「………………」

「俺、今日はもう帰るよ。シズちゃんは早くお風呂にでも入って温まってね」

 そのコートは、また今度取りに来るから持ってて欲しいな。そう言いながら背を向けた臨也が、どんな顔をしていたのか私には分からない。フードを被された辺りから、私は俯いて地面を見つめていたから。
 でも、臨也が背を向けて歩き出したとき、ハッとした私は顔を上げて手を伸ばした。慌てて伸ばした手は、臨也の黒いシャツを掴んだ。

「っと、……シズちゃん?」

「…………い、ざや」

「何……?」

 振り向いた臨也の顔には、寂しそうな笑みが浮かんでいた。

「……ご、ごめ」

「何でシズちゃんが謝るのさ。それはこっちの台詞だよ、ごめんね」

「……、っ」

 本当に申し訳なさそうに言うから、何だかこっちまで更に悲しくなった。そして、頬が雨とは違うもので濡れるのが分かった。

「シズちゃん……!?」

「っ、いざっ、……」

「シズちゃん、お願いだから泣かないで。俺、シズちゃんが泣いてるとどうしたらいいか分からない……」

 そう言いながらシャツを掴んでいた手を引き寄せた臨也は、私を力強く抱き締めて肩口に顔を埋めた。背中に回った腕が微かに震えているのに気づいて、私は更に涙が止まらなくなった。
 本当はただ臨也のことが心配で、臨也に何かあったらと思うと胸が痛くて、もしかしたら二度と会えないかも知れないなんて事も考えてしまってからは、もう、頭の中が真っ白になっていた。ただ、私は臨也が心配で仕方なかったのだ。それなのに、私は……。

「わ、たし、……臨也、が、……しん、ぱいでっ……」

「ごめん、ごめんねシズちゃん。心配してくれたんだね、ありがとう」

「っ、うぅ……、いざ、やぁ……」

「うん、俺はちゃんと此処にいるよ」

 堪えきれなくなった涙は目からボロボロと零れて、未だに降り止まない雨に紛れて地面に落ちていった。
 そっと臨也の背中に腕を回して抱き締め返すと、互いに冷えきってしまっている身体が温かくなっていく気がした。冷たい筈の臨也の身体が、今は何よりも温かくて離れたくないと思った。

「ちょ、シズちゃ――」

 私の意識は、そこで途切れた。




 私の意識が途切れてから、臨也は慌てて私を抱えて部屋に入ったそうだ。そして、私をどうにか温めようと一緒に風呂に入れてくれて、上がってからもずっと抱き締めていてくれたらしい。その証拠に、翌朝、私が目を覚ましたとき一番に目に入ったのは臨也の寝顔で、少し顔を上げただけで唇が触れそうな位置にある顔にドキドキした。
 その後に目を覚ました臨也には暫く離してもらえず、結局一日の半分以上を臨也と抱き締め合ったまま過ごした。私は仕事が休みだったのだが、臨也は仕事があった筈で。それでもずっと抱き締めていてくれた臨也に、私は、初めて自分から触れるだけのキスをした。

 ――とても、幸せな気持ちになった。






20100118~

可愛い♀静が書きたかったのだけれど、何だか無駄にラブラブになった気がする……






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