※科学部お借りしております。
a lie & truth
『これ以上部員が増えませんように』
七月に入る少し前、笹をプラントケア部から少し頂戴して科学室に飾った。
窓から入ってくる夕日が笹を照らす。風が笹を揺らす。
部費不足もあってかなり簡素だった部室が色付いて明るくなった。
そしてもうすぐ七夕だし、と言って部員みんなで短冊を書くことになったのが今日。科学になんの関わりもないことだがたまの休憩だ。
それにしてもこんなこと久しぶり過ぎてなかなか願い事が見つからない。
『新発見ができますように』『部費が増えますように』『実技が得意になりますように』『穏やかに過ごせますように』…
「じゃあ今日はかけた人から解散でー」
ううーんと悩んでいるあいだに声がかかってかけた人から笹に短冊をわいわいと飾っていく。そしてそのままずらずらとみんながカバンを持って帰っていく。あ、私も帰りたい。
早く、早く、何がいいか。
「まだ決まらないんですか。」
「わっ」
うしろを振り返るとキティがニコニコしながら立っていた。
「なんだあなたですか…」
「もうすぐ鍵占めたいんですけど、先輩かきおわらないですか?」
鍵のついているキーホルダーをくるくる回しながら真っ白の短冊をちらっと見て少し飽きれたようにまた笑った。
「ああ、すまない。今書くから」
「いえゆっくりでいいですよ」
またぐるぐるしはじめたがキティの顔を見てふっと浮かんだことがあった。
『これ以上部員が増えませんように』
「えっ先輩そんなこと思ってたんですか?」
「あ、いや」
「白状者ですね…」
「ちっちがうんだ!これは、その、部員が増えて増えて騒がしくってたまらないからっ」
「はいはい」
私の表情からなにか察したかのように笑を深めている。なんだか、恥ずかしい。
「わかってますよ」
「ならいいんだ」
「鍵占めたいんで短冊笹に吊るしてください」
「ああそうだった」
ほんの少し疲れてよれよれと笹によると深い緑の葉のあいだあいだにカラフルな短冊が揺れている。
ぴんく、きいろ、オレンジ…
自分の手に握られた水色の短冊を確認してからできるだけ一目につかないように奥に奥に入れて飾った。
「あっ、先輩奥に飾りましたね」
「う、うるさいぞ」
「素敵な願い事じゃないですか」
なにが白々しく素敵な願い事なんだ。『これ以上部員が増えませんように』なんて他の部員に見られたら総ツッコミだろう。
「ほら!鍵を占めるんだろう!はやくでてでて!」
「はいはい」
これじゃあどっちが先輩だかわかったものじゃない。いたたまれなくなってキティを押しながら半ば追い出すように外に出た。
キティに至ってはますます笑みを深めて鍵を占めると「じゃあ帰りますか」と私の横に並んだ。
ふっと外を見ると星空が張り付いていた。もうそんな時間なのかと時計をみると結構な時間をまわっていた。
急ごうと言おうと思ってキティの顔を見るとなんだかはっとしてしまってなにも言えない。もう少しゆっくり歩いてもいいじゃないか、のんびりのんびり、二人で歩こうじゃないか。
かみさまかみさま、どうか七夕も今日の様な晴天を。そして願わくば私の願いも叶えてください。
fin