オレンジ色だった空がどんどん暗くなっていて、それが合図のようにネオンの明かりがビカビカ異様に輝いている街にいた。そんな中、あなたは苦しそうにわたしを見て微笑んでいる。人だかりなんて気にしない。わたしの目にはあなたしかうつっていない。特に、別に、何も言いたいことはないのだけれど、それでもわたしは思わず言葉にならない声を発していた。届かない。伝わらない。どうしよう。このままでは、あなたが、遠くに行ってしまう。いなくなってしまう。どうしようどうしよう。焦りのせいで過呼吸のようにヒューヒュー息が荒くなっていく。このまま呼吸ができなくなってわたしがいなくなってしまう、ああ、あなたと離れるのは嫌だ。



わたしはあなたに恋をしていた、はず。
だから、
お願い、
居なくならないで。




は、と、目が覚めた。
頭が鈍器で殴られたようにズキズキと痛む。心臓もバクバク破裂しそうなくらい激しく動いている。先程のネオンがなくなり、薄暗い無機質な自分の部屋へと世界が変わっていた。一気に現実に戻ってきたわたしは、まともに目も開けられないほどぼんやりとしていた。が、じわじわ夢の内容を思い出し、急いで寝ていたベッドの隣にある小さな机の上に置いていたスマートフォンを手に取る。時間は午前七時。普段目覚ましがなる時間の三十分前ほどだ。通知は、四件。友達からと、

「あ、」

夢に出てきた独歩からだった。
急いでパスワードを入力して独歩からのメッセージを開く。メッセージを受信した時間は午前三時すぎ。『いま仕事終わった』という素朴な文章。ああ、もう、ほんと、この人はわたしに心配しかかけない。息をひとつ吐いて、おはようお疲れ様、と返信する。きっとまだ寝ているだろう。考えながらベッドが起き上がり、わたしは仕事に行く準備を始める。
数十分が経ってそろそろ家を出る時間になった時、スマートフォンから軽やかな音がひとつ鳴った。今起きたんだな、また彼は社会の中に溶け込む時間になってしまう。わたしはそれがとても辛い。『おはよう。今日は早く終わるかもしれないから久しぶりに会おうか。めんどくさいと思うなら別にいいけど』少し自虐的なメッセージを見てわたしは思わず頬が緩む。
めんどくさいわけないじゃない。会うに決まってるでしょ。
独歩に会えるなら何時でも構わない。とは付け足さずに送信する。今日はいい日かもしれない。あの夢はただの幻。わたしは先ほど化粧を済ませた頬を軽く叩いて、気合を入れながら玄関を開けた。



――――



午後五時。
今日の仕事が終わった。
ずっと座りっぱなしだったわたしは手を上げ、伸びをする。疲れが少し取れたような気がして、鞄の中からスマートフォンを取り出した。独歩からの連絡はないが、わたしは荷物をまとめ、会社を出て、彼のいる街へと足を運ぶ。カフェに寄ってテイクアウトのカフェオレを彼の職場の近くの公園で待っていようか。約一ヶ月ぶりに会う彼の顔を想像してしまい、思わず頬が緩む。
季節的に夜が肌寒くなってきたが、まだまだ暖かいと言える温度ではある。空はオレンジ色に染っていてとても綺麗だ。わたしは最寄りの駅について、彼の職場へと電車に揺られて向かうことにする。
十数分かかってついた街並みはいつもと変わらない。オレンジがだんだん黒に染っていく中、駅のそばにあったカフェでテイクアウトをし、彼のいる会社の近くと向かう。
それから三十分ほど経っただろうか。すっかりカフェオレは冷め、少し前に真っ黒になった空を隠すかのように街が明かりをつけはじめていた。
そしてそれが合図かのようにちょうど独歩から着信が入った。
『もしもし』
「もしもし。終わったの?おつかれさま」
少しいつもより力が無い独歩の声だなと心配になりながらわたしは彼とは反対に明るく喋る。数秒待ったが返事がない。
どうしたの?不安になりながらわたしは彼に聞いた。しかし、それにも、返事がない。不安が焦りになり、彼のいる会社の中に入ってしまおうかと立ち上がると、彼が、二十メートルほど先の信号の前にいることに気がついた。
目が良くてよかった。なんて、思わず薄く微笑みながら、飲みかけのカフェオレと鞄を持って、携帯は耳から離さないように気をつけながら、しかし早足で彼の元へ向かう。

「ど、」

独歩。声をかけたいのに言葉が途中で止まった。

『ごめん』

あ、ああ。
やめてやめて。
電話越しに聞こえてくるあなたの声はすうっと息になり、空へと消えていく。独歩。やめて。行かないで。わたし。あなたのこと好きなの。大好きなのに。どうして。わたしがもっとあなたのこと分かっていたら、こんなことにはならなかったの?




空はネオンの色に染まり、空本来の色は全然見えない。
そんなこと、どうでもいい。
周りの人の目なんて気にせずにわたしの叫ぶ甲高い悲鳴と共に独歩が消えていく。
わたしから彼を取らないで。やめて。神様。








―――





目が覚めた。
わたしは薄く空いた目を凝らしベッドの隣にある小さな机の上に置いていたスマートフォンを手に取る。時間は午前七時少しすぎたくらい。三十分ほどアラームより早く起きてしまった。そしてそのまま通知をみる。通知は三件。友達からだった。

「あれ?」

なにかが可笑しい。そう思いながらもわたしはスマートフォンのパスワードを開いて連絡を返すことにする。





20181129








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