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stardust

http://nanos.jp/xxvorxx/ | Photo by Sky Ruins
365 days
大嘘憑きは笑って泣いてる(toa)

 楽しくないのに、楽しいなと笑う。嬉しくもないのに、嬉しいなと笑う。彼は今、周囲が望む人形と化した。

「どうしたんだ?ジェイド?」

 悲しくもないのに、悲しいと泣く。憤りも感じてはいないのに、炎のような怒りを顕にする。彼は今、誰から見ても解らないような、偽りの喜劇を完璧に演じてみせる役者となった。

「どこか体調でも悪いのか?」

 それを望んだのは列記とした自分たちだ。彼がそうなるようにと無意識化の内に仕向けたのは、紛れも無い自分たちなのだ。
 彼の世界が崩落した日に、私たちは彼へと救いの手を延ばすことはなく、正反対に、彼を奈落の底へと突き落とした。人間の汚い感情に渦巻かれ、無垢だった心を壊してしまった少年は『変わる』とそう笑って自分を捨てた。それを良い変化だと両手を叩いて喜ぶ人間の後ろで、私はとんでもない過ちを犯してしまったことに驚愕する。人とはそう直ぐに変われる生き物ではない。彼が例え人ではなくレプリカという複製品であったとしても、既に『ルーク』という個を形勢しているのならば、何ら人と変わりはしない。故に、彼が直ぐ様自分の中の本質や本性を変えてみせるなど到底不可能なことだった。出来るとするならば、以前のルークが消え、新たなルークが生まれたということ。もしくは、以前のルークは死に、新たなルークを演じているということだ。ソレはすなわち一人の人間の『死』を意味している。それに気がついた時、私は血の気が引く思いを感じた。私は間違ったのだ。あの時、いや、それよりももっと以前から。私たちは間違っていた。
 ルークはルークだった。世間知らずで生意気で、不器用で口下手で、けれども純粋で優しい子どものような。それはルークが7年という月日を経て得たルークという個だったのだ。それをあの日私達が殺した。あの暗い淀んだ瘴気の海へと沈めたのだ。それが実質的な殺人でなくとも、人の心を壊すことなど容易にできる。それが彼が未だ7年しか生きていない幼子であることも関係していた。私たちは、無力な子どもを殺した愚かな大人だ。けれども、後悔してももう遅い。
 ルークは笑う。ルークは泣く。ルークは怒りを顕にし、そうして人のためにと躍起になった。以前のルークよりも人間らしい、否、以前のルークよりも素直に感情を顕にするよっぽど順従な人間。けれども、それはルークではない。私達が求めた理想像をコーティングした、偽りのルークでしかなかった。
 ぼんやりと立ちすくむ私の顔を彼が覗き込む。その大きな翡翠色の瞳には優しげな光が宿っているというのに、そこには一欠片も温もりはない何処かガラス玉を思い起こす輝きをしていた。ぐぅっと心臓が掴まれるような衝撃が走る。何とか表情に出すことはしないが、それでも、隠し切れない衝撃を抑えこむように、私はゆっくりと瞼を閉じた。

「ルーク、幸せですか?」

 何と愚かなことを聞くのだろうか?我ながら嘲笑いたくなるような、反吐の出る質問にゆっくりと閉じた瞼を開く。彼の答えなど決まっている。それしか許されないからだ。それ意外の返答を彼が言うことを誰も許しはしないから、彼はその答えしか持ち合わせていない。なんという事だろうか。滑稽なのは、彼ではなく、人一人を殺めたというのに何も気づかない私達にあるのだ。
 自分をのぞき込んでいた翡翠色の瞳が細められる。そうして、その以前よりも子供っぽい表情に笑みを携えたルークが、こちらに背を向けた大きな声で笑った。

「あぁ!幸せだよ!」

 そう言って、大嘘憑きは今日も笑う。
memo
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