「さみっ」




外に出た瞬間思わず声をあげてしまった。もう春なのに冬みたいに寒い。




「もう暖かくなってもよさそうやけどな」

「ね」

「俺コンポタ飲みたい」

「コンビニあるよ、買ってくれば?」




コンビニを指差すとその腕を掴まれた。白石は爽やかな笑顔を浮かべている。
なんで俺が買わなあかんねんお前が買うに決まっとるやろ、とその顔が言っていた。


逆らうこともできずにコンポタを買ってコンビニを出て歩いていると、いつも曲がる道で白石は曲がらなかった。
え、なんでこっちくんの!




「俺の家こたつないねん」

「だからか」

「名前は怠惰を絵にしたような人間やからこの時期でもまだこたつ出とるやろ」




なんて失礼な!と思ったけどその通りだから何も言えなかった。


けど、いざ私の部屋に入るとこたつは消えていた。




「なんっでやねん!!」




白石が絶望感丸出しの顔で叫ぶ。
きっと私がやらないからお母さんが片付けちゃったんだろう。
白石はこたつ…、と呟いた。
いい気味だ!
心の中で思ったはずなのに、白石は私を睨んだ。そしてニヤリ、とめちゃくちゃ不敵に笑った。




「なあ名前知っとるか」

「な、なんでしよう」

「人が温まるのに一番良い方法は、人と抱きしめ合うことらしいで」




謙也が言ってた、と白石。
私は顔面の血が引いていくのが分かった。なんとなく嫌な予感がしたからだ。長年こいつらに振り回されてきて、私のこういう勘はかなり鍛えられている。
じりじりと近寄ってくる白石はニヤニヤを隠せてなかった。むしろ全開だった。




「あったまらへんか俺と!」

「ぎゃあああ!!」




怖いよーー!!!
なんとか反射で白石の腕をかわし、ドアまで走った。




「ののの飲み物もってくるから!」




照れんなや名前!と言う白石を背に台所へ向かう。照れてねえ。
ココアを作っている途中で、そういえば白石にはコンポタを買ってあげたことに気づいた。
しかし飲め!お腹痛くなれ!
お腹を押さえて唸る白石を想像すると愉快になった。


ココア両手に階段をそっと上り、部屋のドアを開ける。けどその努力も虚しく私はカップを両手から落としてしまった。
なぜなら白石が上半身裸でそこに立っていたからだ。えっ!




「どや!」

「ああん?!」

「照れても始まらんで!」

「なにも始まらなくていいです」

「俺寒いやんか」




色んな意味で寒いだろ!
もう対応しきれないよ…。立ち尽くす私を見て、白石はバッと両腕を広げた。




「さあ来い!」




私は落としたカップを拾いあげた。そしてにっこり微笑んでそれを白石の顔面に投げつけた。
行かねえよ!




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