「名前」



肩に手をかけられたので振り向くと、白石が満面の笑みで立っていた。思わず後ずさろうとすると肩がぎりぎりいうほど掴まれたからやめた。



「な、何?」



引き攣った笑いで返すと、白石は実に爽やかな笑顔で言い放った。



「今日何色や?」



もはやこれは朝の恒例行事だった。白石の言う何色?とは何を隠そう下着のことだ。
この変態!
口には出せなかった。
笑ってごまかそうとすると、スカートをめくられそうになった。



「なにすんの馬鹿!」



思わずその手をひっぱたいて、2秒で後悔した。白石が世にも恐ろしい目つきでこっちを見ている。これが四天宝寺の王子様の正体だぜ!と写真をばらまいてやりたい。しかし皆都合の悪いことは見て見ぬふりだから、誰ひとりとして教室の後ろの隅っこを見る人はいなかった。
た、助けてー。



「へー、ええんや、そないなことして」

「すみません調子乗りました」

「んー?」



白石はスカートの裾を引っ張りながらじりじりと距離を詰めてきた。しかしドキドキしてる場合ではない。貞操の危機だ。
白石親衛隊みたいな人たちでさえ、私が白石とどんなに接近しても見て見ぬふりだった。
ちゃんと働いてよ!あんたもう白石くんに近付かないでよって言ってよー!

なんか目から水が、ってなったところで、横から金髪がひょこっと現れた。謙也だった。



「なん?何ごっこ?」

「え、ごっこじゃないから、真面目に危機を迎えてるから私が」

「なあ白石」

「聞いてよ」



白石は謙也をみてにっこりした。



「名前を辱める遊び」

「ははは!」

「謙也意味分かってる?ねえ分かってるの?」

「うっさいで名前」

「ぎゃああ!!」



どさくさに紛れてスカートをめくりあげることに成功した白石は、「黒か」と呟いた。うるせえ!



「なんか言ったか」

「言ってないです」

「…名前にはうさぎパンツがお似合いやで。黒はな、もっと成長してから着るもんや」

「うるせえよ!」



心底哀れんだ顔で言ってのけた白石に、私は今度こそ言っていた。
白石が笑った。私も笑って逃げようとした。
無理だった。

私が腕を捻りあげられている横で謙也が真剣な顔をしていた。



「俺は赤がええ」



うるせえ聞いてねえ。





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