あれから、なんとなく白石を意識するようになった。
私のことをどう思ってるかとはやっぱり聞けなくて、気にするのもあほらしいから忘れることにした。


「あ」
「どしたの謙也」
「やばい」


放課後、部活に行く準備をしていた謙也が急に焦り出した。聞けばラケットを忘れたと言う。
あほじゃないのか。


「白石とか2本持ってないの?」
「え、いや、忘れたとか言えへん」
「部活だと厳しいもんね」
「あー、どないしよ」


ひたすらにうろうろする謙也。落ち着いて考え事をできないみたいだ。なんかこっちまでそわそわしてくる。


「取ってくるわ!」
「え、家から?」
「おん、ダッシュで。白石に言わんでな!」
「うん、多分」
「絶対や!」


白石が近くにいないことを確認して、謙也は走り出ていった。
そんなに気にしなくても白石なら今コートで指示を出している。っていうかあいつドア開けっ放しで行ったな。
開いてると気になるからドアを閉めた。
また窓際に寄ってコートを見ると、白石がいない。部室の辺りにもいない。
まさか謙也、見つかったか。


「名前」


呼ばれて振り向くと、いつ入ってきたのか、白石が立っていた。
じゃあ謙也は見つかってないのか、良かった。別に謙也が心配なわけじゃなく、謙也が取りに行こうとしていたのがばれると、黙って見てた私まで怒られるから。
白石はゆっくり私の方に近付いてきた。


「なあ、謙也知らん?」


やっぱり謙也のことだった。


「知らないけど、部活行ったんじゃないの?」
「来とらんから探してるんや」


白石は窓から校庭を見渡した。
謙也は学校から出ていったから、そんなに見てもいるはずがない。


「おらんなあ」
「トイレじゃん?」
「……名前、知っとるやろ」
「知らないよ」


白石が目を細めて私を見た。ばれてる。


「俺に隠し事したらあかんで」
「知らないってば」
「へー…。まあええけど」


いいのか。
白石はため息をついて、窓枠にもたれかかった。
夕日が遮られて白石の顔が見えない。


「名前」
「なに」
「あんな」
「うん?」
「えーっと、」


白石はもごもごしながら指先でその細い髪の毛を遊び始めた。
なんだろう、なんか私に言いづらいことでもしたのか。
白石が悪いことをするとも思えないけど、白石の顔が見えないせいでなんとも言えない。
黙られてしまうとなんか緊張する。
変な雰囲気の中白石が喋り出すのを待っていると、肩越しに校門から金髪が走って入ってくるのが見えて思わず「あ」と声が出た。
白石も私の視線の先を追って外を見る。きっとラケットケースを背負って全力疾走する謙也が見えただろう。


「…ラケット忘れたんか」
「へー」
「知っとったくせに」
「うん」
「あほ」


白石は私の頭を軽く叩いて教室を出た。
少ししてから校庭を見ると、謙也が白石に何か言われて困った顔をしている。ふと謙也がこっちを見て目が合った。恨めしそうに見ているけど、私のせいじゃない。
白石もこっちを見て笑った。
手を挙げられて、私も手を振ったけどなんとなく恥ずかしくなって窓際から離れた。

そういえばさっき、白石は何を言おうとしたんだろう。

少し本を読んで寝て、部活が終わって2人が戻って来るころにはそんなこと忘れていた。



101103




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