確かにやりすぎた。
ということで、私は白石に謝った。


「やりすぎましたごめんなさい」
「じゃあ2人でどっか行こか」


このときばかりは東京生まれの私も思ったのだ。
なんでやねん。




「えー、もっと他になかったんか」
「文句言わないでよ、私にはこれが限界だから」
「まあええわ。今日はスタバで我慢したる」


つまり白石は私に奢らせたかったのだ。なんて奴。
家が金持ちでもなんでもない私にはスタバの抹茶ラテだって大きな贅沢だけど、白石は不服らしい。
まあ私が悪かったから我慢する。
断腸の思いで財布を取り出すと、なぜか白石に遮られた。


「なんで?奢ってほしいんじゃないの?」
「冗談に決まっとるやろ」
「じゃあ何しにきたの」
「デート」
「で!?」


持っていたのがラテじゃなくてよかった。
慌てて落とした鞄を広い、けたけた笑っている白石を見る。爆笑か。


「からかわないでよばか!」
「からかってへんし、真面目やし」
「じゃあにやにやしないで」
「してへん」
「してる」
「してへん」
「してる」
「してへんよ」
「……うー」


諦めて座る私を見て、白石はまた笑った。


「ほんまかわええなー名前は」
「いい加減にしないと腹殴る」
「あかんて」
「ふん」
「ははは」


はははってなんだよ。
今日の白石はよく笑うしなんか機嫌いいな。どうしたのか。


「そういえばさー、白石達も大会もうすぐだよね」
「ん、そろそろ練習厳しくなる頃やな」
「そっかー、また下校時刻ぎりぎりまで暇を持て余す時期が来たんだね」
「名前は教室で寝てるだけやろ」
「あの孤独を白石は知らないんだよ。夕日に包まれた教室のど真ん中で一人座って2人を待っている私、かわいそ」
「いつもまたせてわるいな」
「心こめてよ」


睨んでやると、白石は私の頭に手を置いて「すまんすまん」と言った。髪がぐしゃぐしゃなる。


「やめてよ」
「ええやん、さらさらや」
「へんたい」
「ちゃうわ」


しかし言うほど悪い気はしなかった。
白石はしばらくぐしゃぐしゃやっていたけど、満足したのか今度は整え始めた。くし貸して、と言われて手渡すとそれで私の髪をすく。くすぐったい。
少し見をよじると、視線の先に見慣れた姿があった。


「あ」
「…何してはるんですか白石部長」
「お、財前やんか。見ての通りセットや」
「へー」


あきらかに引いている財前を気にもせず、白石はワックスまで出し始めた。おいおい。


「もういいって」
「えー。もうちょい」
「なんで!」
「名前の髪さらさらしてて好きやねん」
「ま、まあね!」


もはや開き直る。財前は眉をひそめてこっちを見ていた。やめて引かないで財前。


「先輩きもい」
「なっ、財前!酷いよ!」
「うーわー」
「お願いそんな目で見ないで財前」
「無理っすわ。…せやけどほんまに髪は綺麗ですよね名前先輩」
「どうせ髪だけの女ですよ」
「触ってええですか」
「は?」


財前の手が伸びてくる。え、ええー。みんな髪フェチなの、とか思ってると白石がぱしっとその手を叩いた。


「あかん」
「部長だって触ってるやないですか」
「せやけどあかん」
「なんでですか」
「なんでも」
「………」
「あかん」
「………はあ、分かりましたよー。部長は女子の髪触ってにやにやしてる変態やって言いふらしときます」
「ちゃうし、名前の髪やし」
「もうええです、じゃあもう飲み終わったし俺帰りますんで」
「おん」
「じゃあね財前」


財前を見送ってる間にさりげなく白石の手から逃れた。
気づいた白石が「あ」と声を発するけど知りません。


「じゃあ私たちも行こっか」
「え、もう?」
「ずっといる気なの」
「あ、いや、ちゃうけど」
「うん」
「ん、行こか」


なぜか動きが遅い白石と一緒に店を出る。肩を並べて歩いてると身長差が気になった。そういえば謙也がいないのに寄り道とか、初めてかもしれない。
そんなことを考えているときに白石と目が合い、びっくりしすぎてむしろ逸らせなくなった。


「なん?」
「な、んでもない」


なんか恥ずかしい。
っていうかなんか、暑いし。温暖化って困る。
そろそろ別れ道だというところで白石が唐突に言った。


「うち寄っていかへん?」
「え」


なぜかどきっとした。
白石の家なんて謙也と何回も行ってる、けど。


「…今日は、いいや」
「そか」
「うん、また今度行く」
「ん、ほな、また明日」
「じゃあね」


今日は変な日だ。白石も、財前も。
けど、白石に緊張してる私が一番変。




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