「名前」 「あ、謙也」 「あんな、ちょっとええ?」 「うん?」 偶然ひとりで歩いていた名前を捕まえた。最近気になることがあって聞こうと思ってたが、なんだかんだこいつは友達が多くてなかなか連れ出せなかった。連れ出して変な話になっても困るし。 「なに」 「あー、なんちゅーか、な」 「なによ」 「最近、白石避けとるやろ」 「………」 名前は黙って顔を背けてしまった。やっぱりそうだったかと、ため息をつきたくなる。 あの日保健室で話したときになんかおかしいなとは思った。名前があんな露骨な嫌味を言うのも、涙ぐむのも初めて見た。 それから名前は白石を避けるようになり、そろそろ1週間経つ。挨拶が素っ気けなかったり白石が来ると突然いなくなったり、名前が何を考えて行動しているのかは分からないが、俺としてはいつものように3人で仲良く騒いでいたい。 「なあ、なんで?」 「……」 「そらあん時白石はちょっと無神経やったかもしれへんけど、そんな気にすることとちゃうやろ?」 「んー、うーん……」 「わからんの?」 「えー…」 なんだろなー、と名前は首をひねった。難しい顔をしてそのままうんうん言っている。 これは、もしや。っていうか確実に。 名前は本当に分かってない。分かってたら名前だってなんとかするんだきっと。 名前にも分からないなら俺にはもっと分からない。 「…まあ、あからさまに避けとったんじゃ白石も気にするし、とりあえずよく考えなあかんで」 「うーん…」 「白石傷ついてるでたぶん」 「たぶんかよ」 「たぶん…」 「へー」 「まじで」 「はいはいそうですねー」 名前は疑わしそうな目をこっちに向け、俺がたぶんと繰り返すと笑った。 本当はたぶんなんかじゃない。白石は傷ついてるし気にしてる。 本人から聞いたんだから間違いない。し、聞かなくてもいいことまで聞いた。それは俺にかなりの衝撃を与えた。名前に言ったら卒倒するかもしれない。 『名前が好きや』 薄々気づいてはいたけれど。 |