「名前、飲み物持ってへん?」 「あるけど」 「ちょうだい」 「あほなの?」 上を向いた白石の手の平をぱしりと叩く。白石は不満そうに頬をふくらませた。 「美形だからってぶりっこするなー」 「美形やと思っとるん?」 「そりゃあまあ……」 これを美形と言わずになんと言うのか。これだけはずっと白石といても変わらないし、整形でもしない限りこれからも美形なんだろう。 私が頷くと白石はにこにこして「そっか」と言った。なんなの。 「あー、そうやなくて、飲み物」 「買ってきなよ」 「えー」 「ええー」 「名前のくれへんの」 「飲みかけだし」 「ええやん」 「よくない」 「財前にはやったくせに」 「え」 「昨日言うてたし」 「あー、あれは不可抗力っていうかなんていうか……」 「ふーん」 不機嫌そうにだった白石は突然にやりと笑った。何を企んでるの、言おうとしたら白石が片手で私の腕を掴んだ。 「不可抗力ならええんや」 呆気にとられてるうちに白石は私のかばんからペットボトルを取り出した。今日は麦茶。学生は金欠なのである。 「ちょっと!」 「ええやんか不可抗力やったんやから」 「そうじゃなくて!」 「うるさいうるさい。ほな次体育やし俺行くわ」 「あ、待てばか!」 行ってしまった。私だって体育で走らなきゃいけないのにどうしてくれるんだ畜生。ないと思ったらのど渇いてきたし。っていうかなんか暑いし。沸騰しそう、今日そんな気温高かったかな。 我慢できなかった私は仕方なしに水道水を飲んでグラウンドに向かった。 そしてハンドボールの試合で味方の華麗なシュートが見事顔面に当たった私は現在保健室で謙也に手当を受けているのである。 「いたたたた」 「お前もよくやるなあ」 「うるさい」 「おー、いたいた」 「白石やん」 「名前また怪我したんやて?」 白石は私の隣に座ってからからと笑った。またって何。好きで怪我してるわけじゃないし。 「味方にボール当てられたんやて」 「うわ、痛そ」 「痛いよ」 「なんでそんなへまばっかするんかなー」 「……白石と違って完璧とかじゃないんで」 「あれ、…怒っとるん?」 「別に」 怒ってるんじゃなくてなんか悔しい。なんで白石に言われるとこんなにむかむかするんだろう。悪気が無いのはわかってる、んだけど。 「せやけど名前のあほなとこかわええから好きやで」 ぷっちん。 気をつかったのかなんだか分からない白石の言葉は何故か私の気に障った。 「ああそう、それはどうも」 言って振り返りもせずに保健室を出る。2人が驚いてるのが見なくても分かった。自分が勝手な感情で動いてるのも分かってた。どうして私はこんなに。 わけのわからない感情が大きくなってわけのわからない涙が出て、私はわけもわからないまま走った。 |