「暇ー……」


教室からグラウンドを眺めてテニス部を探す。今日は練習試合らしい。謙也が走り回ってるのが見えた。部活が終わるまでまだ時間があるし、誰か来ないかな、なんて思っていると教室のドアが開く音がして財前が入ってきた。「なんや、先輩か」っておい。


「部活は?」
「後で行きますわ。それより先輩、俺飲み物持ってくるの忘れてもうたんでなんか下さい」
「自分で買ってきなさい」
「めんどいっすわー。しゃーないから部活さぼろ」


財前はどかっと床に座り込んでしまった。そういえば財前がテニスやってるのを最近見かけないかもしれない。


「さぼりすぎだよ財前」
「真面目にやってます」
「嘘つけ。私窓から見てるんだからね」
「へー、そら何でです」
「な、何でって…」


白石と謙也を待ってるから?いや、なんでだろう。私は何を見てるんだろう。テニス部を無意識に見てる私ってなんなの。


「好きなやつでもおるんですか」
「ないないない、絶対ない」
「へえー」


興味ないなら聞くなよ、と言いたい。けど言わない。優しい先輩だな私。優しいついでに悪い後輩を正してあげよう。


「財前、部活」
「せやから飲み物」
「お金あげるから買ってきなさい」
「いらんすわー」
「この……!」


仕方ないから持っていた500円玉を財布に投げ入れると、財前が急に立ち上がった。最初に会ったときから随分と背が伸びたなあ、私より大分大きくなっちゃって。何気なく見上げていると財前は私のかばんを漁りはじめた。


「おいおいおい!」
「あ、あった」
「財布はだめだよやめて!」
「ちゃいます」


財前が手に持っていたのはポカリのペットボトルだった。ちょっと待ってどこ行くの。


「こら財前」
「部活行くんすけど」
「それ私の」
「俺アクエリのが好きやけどしゃーないからこれで我慢します」
「何様」
「ええやないですか、俺と先輩の仲やし」
「どんなだよ」
「まあまあ。じゃ、俺行くんでー」


ペットボトルをかざしながら今度こそ財前は教室を出た。まあ別にいいか、財前だし。ちょっとしか飲んでないから部活でも足りるだろう。
話し相手がいなくなったのでまたテニス部を眺めることにしよう。
今度は白石が試合をしていた。綺麗なフォームで打つし走るし、聖書とはよく言ったものだ。コートの回りでは女の子達が応援していて、白石くーん、なんて可愛い声がここまで聞こえた。みんな暑いのによくやるなあ。私はここで見てるだけで充分だよ。

部活が終わって2人が戻ってきたとき、財前に言われたことを思い出した。もしかしたら私はずっと白石を見ていたのかもしれない。




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