二人で教室まで戻ると、自称デートのはずの謙也が戻ってきていた。 「やっぱ気になるやん」らしい。 白石と繋いだ手を見て、謙也は何故か嬉しそうに笑った。 「やっとやな」 そやな、と白石が返す。私もそう思った。 校門から出るところで財前と鉢合わせて、財前は顔をしかめた。失礼だ。 謙也みたいに笑ったりしないでけっ、と悪態をつく。 「やっとっすか、あんたら」 あんたとは何事だ口が悪い、と思ったけどそれよりも財前が知ってたことの方が気になった。 後ろから歩いてきた小春ちゃんたちも口を揃えて「長かった」と言う。 ちょっと待て何でだ。 「何言うとるん、ほんま分かりやすかったで名前は」 「私だけかよ」 「や、白石もなんとなくは」 つまり気付いてないのはお互いだけだったのだ。 私はそれに気付かないふりをして懸命に隠していたのに、どうでもいいこの人たちはそんなの簡単に見抜いていた。なんだそれ。私は今まで何に必死になっていたんだろう、馬鹿馬鹿しい。 「お似合いやわぁ」という小春ちゃんの一言でついに噴き出してしまった。 「なんやねん」 「なんかね、すごいね」 「は?」 「みんな私が分かってないことを知ってるね」 謙也はきょとんとしてから、少し拗ねたみたいに「当たり前や」と言った。 「俺らは名前が大好きやって言ったやろ」 ああなんか、愛されてるなあ。 とか思った。私が悩んでたことってちっちゃかったんだなあ。 私もだよー、って笑ってると白石が握った手に力をいれて「やらんで」と言ったから嬉しくなってまた笑った。 みんなはそのあと散々私たちをいじり、気を利かせたのかなんなのか、私たち二人を残して先に帰っていった。ちなみに理由は全員デートだった。 「なんかなー」 「なに?」 「あれやな、みんなに愛されすぎてんのも複雑や」 「なにそれ」 「俺より名前のこと分かっとるし」 「あー」 「みんなよう見てるなあ」 「恋は盲目ってやつだよ」 「ちょっと違うやろ」 「まあまあ」 だってなー、とかなんとか白石はぶつぶつ言う。自分以外の皆が私の気持ちを知っていたのが気に入らないみたいだった。私だってちょっと不満だ。そんなに分かりやすくないはずなのに。 「でもさー白石、みんなが分かってないこともあるよたぶん」 「なんや」 「私しか知らない」 「言うてみ」 「ええー」 「言わんとキスするで」 「すれば」 「なっ」 「何、しないの」 「う、うっさい!はよ言え!」 自分で言い出したくせに白石は赤くなって怒る。笑っているとそっぽを向いてしまった。 「わかった、言うから」 手をほどいて白石の肩にかける。焦る白石は無視で、背伸びして白石の耳元まで近付いた。 「世界で一番白石が好き」 そうしたら白石に抱きしめられた。路上でなんてことするんだ恥ずかしい、とか思っていると、今度は白石が私の耳元で言う。 「そんなん、俺もや」 突然体温が上がった気がした。ここがどことか人がいるとかどうでもよくなって、白石に抱き着く。今は顔を見られないようにするのが最優先だ。 それなのに白石は覗き込んできて、顔を背けようとする前に両手で頬を挟まれた。文句を言う前に唇を重ねられる。 「好きや、名前」 知ってる、と呟いて白石の胸に顔を埋めると上から優しい笑い声が降ってきて、私も笑った。 110322 |