「………で?」 「はい?」 「はい?やないわ!アホか!!」 「け…っ、謙也に言われたくない!」 「なんやて!」 ガタッと椅子から立ち上がった謙也を下から睨みつける。 そのまま睨み合ってるうちに謙也がため息をついた。 放課後に部活も行かず何をしているかというと、私が相談しているのである。もちろん白石のことで。 あんなこと一人で考えてたらきっと私は発狂してしまう。きええ!ってなる。 「…そんで、お前どないしたん」 「白石が『今すぐ返事出さなくてもええ』って言った」 「おん」 「から、じゃ!って家入った」 「お前やっぱアホや名前!」 「は!?」 「なんでや、馬鹿か、アホか、じゃ!って…」 さっきから聞いてれば失礼な奴だ。 いや、さすがに今考えたらその対応はなかったと思うけどさ。やっぱりあのときはパニックでそれどころじゃなかったわけですよ。パニックすぎて変にいつも通りだったみたいな。 「白石もなんで今言うたんかな」 「………」 …さっきからちょいちょい思ってはいたんだがこいつ。 「…知ってたの?白石が私のこと好きって」 「……あ。し、知らんて!なんとなくや!なんとなく!」 何がだよ。あってなんだよ。 そばにあった筆箱を投げつけると、むかつくことに上手くキャッチされた。 謙也は困ったような顔をして、「すまん」と言う。 「知ってはいた、けど」 「うん」 「知ってたってだけで、他に相談とかされてへんし。俺も聞いたとき聞き間違いかと思ったし。なんで名前?的な」 「しばく」 「ちょ、待ってや!それ国語辞書!」 「知ってる」 ちょっとしてから辞書を机に戻すと、謙也はほっと息をついた。 あーおもしろかった、怯える謙也。 「…名前、どないするん」 「ん?」 「返事せなあかんやろ、白石に」 「……うーん」 それはそうだ。 っていうかそれで困ってるから謙也に言いに来んだと思うけど。でも考えたら結論はもう出てた気がした。 「…お断り、しようかな」 「白石じゃあかんの?」 「そういうわけじゃない」 「じゃあなんで」 「白石とは友達のままでいたい」 「嘘や、そんなわけあらへん」 「なんでよ」 なんで謙也にそんなこと言われなきゃいけないの。 そう言えば謙也はずかずかと近寄ってきた。なんで怒ってんのこいつ。 「絶対嘘や!何やねんお前」 「謙也がなんなの」 「名前お前な、自分で分っとらんのやったら言うけどな」 「自分のことは分かってるよ」 「アホに分かるかアホ!いっつも思っとったけどな、自分、白石のこと好きやで!」 絶対、と謙也は言った。 ほんとなんなの、謙也今日うざい。来なきゃよかった。 別に白石のこと嫌いで言ってるわけじゃない。 っていうかむしろ好きだし。 最近はこれ恋じゃね?って若干思うところがないわけじゃないし。 私のことは私が一番分かってる。 だけどやっぱり。 「……私と白石じゃ、釣り合わないじゃんよ。白石は頭が良くてテニスも上手くて何でもできてすごいけど、私はなーんもできないでしょ。謙也にはわからないでしょこんなの、だって謙也はほんとはできるもん。私、なんで2人といられるのか分からない。なんで2人が一緒にいてくれるのかわかんない」 ずっとずっと、今日までずっと思ってた。 言えるわけもなくて、ずっとそのままだった。 聞けばよかったのかもしれないけど、私は小心者だから。嫌われるのも呆れられるのも離れられるのも怖くて、ただそこにいられればいいやって無理矢理納得して。 でもちがくて、ほんとは納得なんかできてなくて。今までの関係がどういう方向に変わってしまうのも怖い。 「自己保身、かも」 呟いたのは聞こえてると思うけど、謙也は何も言わなかった。 なんで悲しそうなの。怒ったりしないの。 謙也が何か言う代わりに、背後から微かな物音がした。 なんとなく誰かは分かって、振り返ると白石が立っていた。 「……何やねん」 私をじっと見たまま握るその両手はわずかに震えている。 白石が、怒っている。 それだけで泣き出しそうになっている私がいた。 「し、白石…」 「何やねんそれ!俺らが仕方なくお前とおったとでも思うとるんか!ふざけんなボケ!!」 「だから、私は、」 「なんや!」 「………っ」 「……なんもないんか」 「しら、」 「もうええわ、アホ名前!!」 吠えるように言って、白石は教室から出ていく。 ドアが大きな音をあげて閉まり、肩が跳ねた。 なんなの、ほんと。 私、ずっと仲良くいたいから、だから、自分の中だけにしてたのに、さ。 謙也にも白石にも怒られるし、アホとか馬鹿とかそんなことばっかり言われるし。 「さすがに、応える、なあ」 ぽつりと呟くと、さっきまで怒っていたはずの謙也が私の頭に手を乗せた。 「泣くなや」 泣いてなんか、ないし。 101205 |