「くらくらくらくら」
「なんや名前、そしてしつこい」
「ごめん。おなかすいた」


言って両手を突き出すと、くらは「は?」と言った。は?じゃないよは?じゃ。


「食べもの」
「なんでやねん、あらへんわ」
「うそつきー、それちょうだいよ!」


くらはメロンパンを持っていた。そんなまさに見え透いたうそをつくだなんてばかめ!
素早く(私的にマッハで)手を伸ばしてみると、それを上回る動きで避けられた。


「あかんて。これは俺の」
「いいじゃんよちょっとくらい」
「名前のちょっとはちょっとやない」
「じゃあ一口」
「俺も腹減っとるんやけど」
「我慢しなさい男でしょ!」
「関係あらへん」
「お願いー」
「やらんで、食べかけやし。早く家帰ってなんか食べなさい」
「ええー」


今おなかすいてるのにー。
家につくまでに空腹で倒れちゃったらどうするの!って言ったらため息つかれました。おーい。
しかしそのため息のおかげでメロンパンがお留守だぜ!


「よしゃー」
「あ」
「うまーうまー」
「あー…、はあ…」
「幸せー」
「…しゃーないから全部食ってええよ」
「ほんと?やったーくら大好き」


神だよ神。メロンパンの神。おなかが満たされることが嬉しくて、私はくらの腰に抱き着いた。するとくらは私の腕をガッと掴む。え、何?


「そないなことすぐ言ったりやったりしたらあかんで」
「なんでー」
「なんでって…」
「えー、なんでなんで。だってくら好きー」


パンくれたし!
抱き着いたままでいると、諦めたのかくらはため息をついて私の腕を放した。けど今度は肩を掴まれる。えー。


「名前、さっき俺に男なんやからって言うたな?」
「言ったけど」
「せや、俺は男や」


はあ?
言う前に私の唇はくらの唇で塞がれて何も言えなくなった。っていうか、え、はあ?
離れたくらの唇は私のグロスで濡れている。ちょっと待ってほんと。


「こうなるからああいうことしたらあかん、分かった?」


超至近距離で言われて、私はこくこくと頷くしかなかった。
どうしようあたままっしろ!な私に構わず、くらはさらに追い打ちをかける。


「好きや」
「は!?」


またくらにグロスを持っていかれたのと私が恋に落ちたの、どっちが先だろう。



100923
振られることを想定していない白石さん



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