「ねえ」
「うわっ!」


授業中、ぼーっとしてたら突然幸村君が現れた。現れたっていうか振り向いた。私の席は幸村君の後ろだ。
幸村君は思わず声をあげた私をじと目で見る。やめてやめて怖いから!


「な、なんでしょう?」
「ここの問題わからないんだけど」
「え」
「俺にも分からないことってあるの、悪い?」
「いや悪くないっす」
「そう」


にっこり笑う幸村君。しかしだったら早く教えろよ的なオーラが漂っている。
仕方なく指差された箇所を見ると、見事に分からなかった。


「…分かんない」
「は?」
「ごめんなさい分かりません」
「は?」
「む、無能ですみませんごめんなさい!」
「うん、いいよ」


ようやく満足したみたいだ。こんなふわふわしといて魔王みたいな性格だなんて、そんなギャップいらない。
っていうか先生注意してよ。この人後ろ向いてるよ、人の邪魔してるよー!


「あ、シャー芯切れた」
「……」
「あー、ないなあ。これじゃあ勉強できないやー」
「………」
「………」
「ど、どうぞ」
「あ、いいのかい?さっすが名前、役に立つ下僕、ごほごほ優しい子だね」
「下僕って言ったよね」
「やだなあ咳がでちゃったからそう聞こえたんだよ」
「え」
「ね?」
「はい……」


うううなんで私この席なんだ。席離れてても嫌がらせは絶えないけどさあ。
頭を抱えていると隣の席のなんとかくんが机を叩いてきた。
シャー芯が切れたらしい。お前もか。
しかし幸村君とは違い嫌がらせでやってるわけでもないのでサービスで2本渡そうとする、と幸村君が私の腕をバン!と机に叩きつけた。いてえええ!


「な、なに!」
「ああ芯がきれちゃったんだ?それじゃあ困るよね俺のをあげるから存分に勉強しなよ、はい」


持ってるじゃん、と言う私を無視して、幸村君はなんとかくんの机にに芯をバラバラと落とした。なんとかryは顔を引き攣らせてお礼を言う。それを哀れそうに見る私の腕を幸村君はつねった。


「いたいいい」
「おい」
「はい!」
「名前は俺の下僕げほげほ下僕だろ?」
「もう突っ込むまい」
「名前は俺のものであってこれから誰かのものになるなんてことはないし俺が幸せにするから、だから俺以外に優しくしちゃだめだ」
「は?」
「分かった?分かったよね名前はいい子だもんね」
「え、あのですね」
「じゃあ授業に集中するから邪魔しないでね」


幸村君はくるりと元の体勢に戻った。ふわふわした髪からのぞく耳が赤い、ような気がする。
邪魔しないでと言われたし邪魔すると何されるか分からないから邪魔はしないけど、やっぱり気になる。我慢できなくなった私がとうとう幸村君の肩をたたいた瞬間鳴るチャイム。


「    」


幸村君が何か言っているけど聞こえない。
だけど唇の動きは間違いなく読み取れて、私の体温は急上昇し世界がぐるぐると回った。


「好きだよ」


100912



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