毎日毎日、同じことを繰り返している。
女を取っ替え引っ替えしては彼女を泣かせ、別れると言われては好きだと囁いて宥める。そして次の日もまた違う女の肩抱き、彼女を泣かす。その次の日もまた。
彼女のことは好きだった。小さくて可愛くて優しい、誰もが羨むような女の子。愛しいとか、思わないことも、ない。
それなのに何故こんなことをするのかと問われたら、それは自分でも分からない。なんとなく、とか言っておけばいいのか。明確な理由なんてない。ただ毎日ふわふわとした何かに動かされている。
そんなもんじゃろ、皆。


しかしあるときそれは突然変わるのだ。


今日も違う女の肩を抱いて帰り、彼女を泣かせた。彼女は別れる、と言ってまた涙を流す。俺は今日も同じように彼女のそばに寄り腕をのばす。
その腕を、彼女は振り払った。
小さな彼女からは想像もつかない動作だった。
驚いて彼女を見ると、彼女も俺を見ていた。小さくて可愛くて優しい彼女は、強い意志をもった目で俺を真っすぐに見ていたのだ。
初めてマズイ、と思った。

彼女はもう一度、その小さな口を動かして「別れよう」と言った。



「嫌じゃ」



ほとんど反射的に出た言葉に笑いそうになる。今まであんなことしてきて、今さら嫌だなんて。
彼女は何も言わない。
彼女は決めたのだ。俺が毎日同じことを繰り返している間、考えて考えて、そうして決めたのだ。
彼女に突き放されて初めて、俺は懇願した。別れたくない、嫌じゃ。なんて無樣。
彼女を抱きしめてお願いじゃから、と言うと、彼女は俺の胸をゆっくり押して引き離した。



「駄目だよ、雅治」



彼女はもう戻らないのだ、とようやく感情が飲み込み、次に出てきたのは涙だった。彼女も泣いている、けど違う。
彼女は前に進んで、俺はここに残されるのだ。

彼女の真っすぐな視線を正面から受ける。
その瞳に映った俺はひどく情けない顔をしていた。



「じゃあね、今までありがとう」



俺を見たままそう言って、彼女は横をすり抜けて行った。俺は彼女の背を目で追った。彼女は振り返らない、立ち止まらない。
彼女が角を曲がって見えなくなり、俺は道端にしゃがみこんだ。立っていられなかった。
俺は彼女が好きだったし、愛しかった。
彼女を泣かせたかったわけでも別れたかったわけでもない。
もう一度問われたら答えられる気がする。
俺は寂しかったのだ。

電柱の影から猫が出てくる。野良猫らしいそれは、俺なんかよりもずっと強そうだった。手を伸ばすがするりと躱されてしまう。
一部始終を見ていたのであろう猫は、一声鳴いてあの曲がり角へ消えた。



110317



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