「ねえ、俺が消えたらどうする?」




それは俺の頭の中に突然浮かんだ問い掛けだった。突然すぎたからか名前の口は半開きで、はっきり言って間抜けだ。
その口を凝視されていることに気づいて、名前ははっとして口を結んだ。




「なに、どうしたの、なんかあったの」

「別に。思いついただけ」

「具合悪いの?」

「本当に思っただけだってば」




心配性な名前がおもしろい。笑っていると名前はむくれて腕を組んだ。
そのままで俺の隣に腰掛ける。




「うーん、消えちゃうのか」




唸る名前は、どうやらさっき俺が言ったことを考えてくれているらしい。
そんなに深い意味で言ったわけじゃないんだけどな。パッと出てきたってだけで。
そう言っても、一度考え始めた名前は答えを出すまで止めない。俺は少し呆れてこっそりと笑った。

長い間考えていたって急かしたりしない。
言葉をちゃんと聞いて、確かめるように言葉を紡ぐ名前が俺は好きだ。

眉間にしわまで寄せている名前を、俺はそっと抱き寄せた。
ふわりといい香りがする。




「精市君はさ、どうなりたいの」

「ん?」

「もし消えちゃったとして、精市君はどうするの?」




名前の問い掛けに今度は俺が唸った。
どうしたいかなんて、そんなの考えてない。
そもそも俺が消えた後のことなのに、俺に選択権なんてあるのか。




「変なこと聞いたね、ごめんね精市君」

「いいんだ、元々が変なことだったから」




それに、名前の問い掛けなら俺はちゃんと答えたい。




「そうだな、星にでもなろうかな」

「駄目だよ」




即座にそう言った名前に驚いた。
腕の中の彼女を見ると、ふてくされたような顔を向けている。




「精市君は、星になんかなっちゃ駄目」

「どうして」

「星ってみんなが見るものだよ、世界中の人が」

「そうだね」

「そうしたら、精市君はみんなのものになっちゃうでしょ。私、嫌だよ」




何かと思えば、世界の人々を相手取ったやきもちだったらしい。
珍しいこともあるものだと笑ったけど、名前は気にせずに続けた。




「それで、さっきのことを考えたんだけど」

「うん」

「精市君はね、私の中で星になればいいよ」

「名前の?」

「うん、私の中でずーっとだよ。私は精市君を忘れないし、精市君はちゃんと星になれるでしょ」




「ね?」と名前は俺を見上げた。
真剣に考えた割には無理矢理でひどく利己的な気がしたけれど、なぜか俺はそれで納得できた。




「それがいいね」

「うん」

「でも名前」

「ん?」

「俺は消えたりしないから」

「…それが、一番いいね」




そう言って名前が笑うと、心が満たされた気がした。

こんなに愛しい名前を残して消えるなんてことは到底できそうにない。
だけど名前が笑ったなら、あんな意味のない問い掛けだって無駄にはならないのだ。






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