俺は町を走り回っていた。夜だ、深夜だ。真冬だから当然寒い。
なぜこんなことをしてるのかといえば、名前からの電話が原因だった。


「かくれんぼしねえ?時間は無制限、鬼は仁王ね。じゃ、さらば!」


これだけだ。本当にこれだけだ。俺の声が通話口から向こうに伝わることはなく、一方的な提案の後に電話は切れてしまった。
普通に考えれば悪戯だと思うだろうが、言ったことは何がなんでもやり通すという、良くも悪くも有言実行の名前の性格を知っている俺としては放置するわけにもいかない。捕まえるまで延々と隠れ続けることだろう。

そういうわけで俺は、「名前ちゃんと遊ぶの?」なんて呑気なことを言う母を適当にあしらって外に出たのだった。

公園にゲーセンにスーパーからコンビニまで、行きそうなところは片っ端から探してみた。
が、どこにも名前はいない。
しばらく考えて、俺は電話をかけてみることにした。



「はいよ」

「おー名前、どこにおる?」

「教えるわけないじゃん」

「ちっともわからんぜよ。くたくたじゃ」

「じゃあヒント!初志貫徹…いや、違うわ。灯台下暗し?」

「は?」

「そういうことだから!じゃ、頑張ってくれ」



抑揚のない機械音が流れる。また切りやがったあいつ。
小さくため息をついてから回りを見回す。当然名前の姿はない。
それにしても寒い。パーカーだけで出てきたのは無謀だった。
とりあえず上着を取りに自宅へ向かうことにした。






俺の家の玄関前に、うずくまって背を向けるピンクの物体があった。
最初不本意にも驚いたが、良く見るとそれはピンクのパーカーを着た人間だった。



「………」

「……おい」

「………」

「……。見つけたぜよ、名前」



仕方なくそう言うと、名前は勢いをつけて立ち上がって笑顔で振り返った。
鼻と耳が真っ赤だ。



「遅かったねー」

「アホか。寒いじゃろうが」

「仁王が遅いせいで寒いよ、鼻水止まんねーよ」

「かめよ」

「ティッシュない」

「やる」

「嘘だよ大丈夫だよ、なめんな」



言うと同時に、俺の横腹に名前の拳が入った。いつでも全力の名前はこれも例外なく全力で、俺は思わず呻く。



「何するんじゃ……」

「遅いから」

「あー、はいはい。すまんかった」

「寒い」

「俺も寒い」

「…寒いってば!」



名前は怒った顔をしてぴょんぴょん跳びはねた。
それがおもしろくて笑っている間も名前は寒い寒いと暴れる。
その腕を掴んで引き寄せると、俺の腕にすっぽり収まった名前は満足そうに笑った。



「ふふん」

「名前に構ってると疲れるのう」

「でも楽しいんでしょ?分かってるぜ私には」

「そうなんじゃけどな」



何がおもしろいのか、名前はけたけたとは笑う。そのまま俺に抱き着いてきて顔を擦り寄せた。ピンクのパーカーで小さいからうさぎみたいだ。
そういえば今年は卯年だったかの、なんて思いながら頭を撫でると、名前は顔を上げてまたへらりと笑った。
あまりに可愛いから唇を奪う。くぐもった声が聞こえた。
疲れても怠くても名前に構っていられるのは、それ以上に楽しいから。と、さらにそれ以上に名前が愛しいからだ。

そっと唇を離すと、目を開けた名前が当たり前のような顔して言った。



「次は私が鬼ね!」



躊躇わずに頷いてしまった俺は、もう末期かもしれない。




110102
今日誕生日の友人が仁王好きだから、ね
gdgdだけど、ね





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